日本でのハーブ栽培の第一人者。ハーブが味のアクセントとなるお握りや卵焼きの並ぶ朝食が、農芸家の健康を支える。

【霜多増雄さんの定番・朝めし自慢】

中央から時計回りに、お握り(鰹節・シブレット・醤油・焼き海苔・マスタードリーフ)、林檎 、卵焼き(ディル)、自家製発酵ジュース、ボーンブロススープ(オーガニックスーパー クランデール/千葉県松戸市横須賀 1-14-13 電話:047・309・6911 オーガニックオンラインマーケットcoco seasons、シブレット)。お握りは“シモタの有機質米”で握ったもの。具は同じで、焼き海苔とマスタードリーフで包む。卵焼きはディルに代えてチャービルでも、卵との相性がいい。発酵ジュースはビーツや薬草、ハーブ、季節の野菜などを合わせ、それと同量の砂糖を入れて、毎日混ぜながら5~7日置く。こうしてできた発酵エキスを水で割ったもので、腸内環境を整え、免疫力を高める効果があるという。
常備の栄養補助食品「穀楽園」。丹羽耕三博士が開発した体内の余分な活性酸素を除去する酵素で、原材料は有機穀物や植物種子。唾液とともに噛み下す。
問い合わせ:03・5785・4870
食後に楽しむハーブティー。スペアミント、アップルミント、レモンバーム、レモングラスに少量のローズマリーをブレンドし、沸騰した湯を注いで5分ほど蒸らす。生葉特有の爽かさに加えて、甘い香りが口中に広がる。

「農家は朝起きて、畑でひと仕事してから朝食です」と霜多増雄さん。起床は午前5時~6時、朝食は8時頃。右から息子の辰樹さん、霜多増雄さん、妻の由子さん、嫁の浩子さん。

フランスのレストランで食べた料理が、その後の人生を決めた。霜多増雄(しもた・ますお)さん、23歳の時である。

「サラダが運ばれてきた時、“ずいぶん匂いが強いな”と思ったんですが、食べてみると旨い。それがハーブとの出会いでした」

1945年、茨城県取手市に生まれた。高校卒業と同時に、家業である農業に従事するが、父親との諍いが絶えぬ日々。そんなある日、世界の農業を学びたいと思っていた霜多さんが、家を飛び出して向かった先がフランス。そこで冒頭のハーブと出会うのである。

帰国後、ハーブ栽培に着手するも、日本に師となる人はいない。そこでイギリスのハーブ研究家、ジョン・マナーズ卿に手紙を出して渡英。かくしてイギリスのみならず、ヨーロッパや中東でハーブ栽培や有機農業を学び、1975年、30 歳で日本初のハーブの栽培を始める。さらに’90年には「シモタ農芸」(シモタファーム)を設立。“農場”ではなく“農芸”としたのは、エビデンス(科学的根拠)のあるハーブや生食野菜の栽培を目指したからである。以降は「全国農業コンクール優秀賞」や「日本農業賞(金賞)」「緑白綬有功章」などを受賞。3年前からは開発途上国への国際協力を行なうJICA(ジャイカ・独立行政法人 国際協力機構)の民間連携事業で、インドネシアでの野菜栽培にも挑戦している。

ハーブ栽培の師であるイギリスのジョン・マナーズ伯爵を訪ねて。「ハーブは人を健康にし、生活をより良くする」というのが伯爵のハーブ哲学。教えを請う手紙をきっかけに、亡くなるまで20年以上の交流が続いたという。

エビデンスのある農産物

「シモタファーム」の農産物が評価される背景には、“無農薬・無除草剤・無殺菌剤” “自家製完熟堆肥による土作り” “抗酸化力”などがある。例えば、朝食に登場するお握りは“シモタの有機質米”で握る。これはどんな米か。

「LPS(リポポリサッカライド)が通常のブランド米で100g中31マイクログラムなのに対し、うちの有機質米には41マイクログラム含まれている。これは肥料による違いです。LPSとは土壌などに含まれる細菌の一部で、免疫力を上げる効果があり、免疫ビタミンともいわれます」

霜多家の朝食は、おかかとハーブが入ったお握りに、同じくハーブ入りの卵焼き。加えて、妻の由子さんが作る発酵ジュースが欠かせない。エビデンスのある米や野菜、ハーブが、一家の健康の源だ。

JICA(ジャイカ・独立行政法人 国際協力機構)を通してインドネシア政府の農業関係者がシモタファームを訪問。安全で美味しい野菜作りに欠かせない土壌や堆肥作りなどを、総合的に説明する霜多さん(右)。
ファームにあるラボ(研究室)で野菜に含まれる成分を解析。第三者機関によるデータ分析と合わせることで、科学的根拠のある野菜作りを実践している。下の著書に掲載されたデータもここで得られたものだ。
著書『科学でわかった安全で健康な野菜はおいしい』は、科学データから安全で健康な野菜作りを追求した一冊。他に『データが語るおいしい野菜の健康力』も(共に丸善出版)。

エビデンスに基づいた農産物で、みんなが健康になってほしい

レモングラスの畑で霜多増雄さん(左)と息子の辰樹さん。レモングラスはレモンより少し甘い香りがある。茨城県取手市にあるファームは無農薬のため、蝶が飛び交っている。
シモタファームへの問い合わせ:0297・78・7661
E-mail:shimotafarm@agate.plala.or.jp

霜多さんがハーブ栽培を始めた40数年前、市場では誰も見向いてくれなかった。ところが、いち早く目をつけた人たちがいる。帝国ホテルの村上信夫元シェフやホテルオークラの小野正吉元シェフだ。

「次第に国外のハーブの種子を持ち帰ったシェフから、栽培を依頼されるようになった。さらに、’80年代後半からの“イタメシブーム”がハーブ需要に拍車をかけ、事業は軌道に乗り始めました」

この頃、新潟薬科大学教授(当時)の及川紀久雄さんと知り合う。この出会いが、エビデンスのある野菜作りを志す契機となった。

「私は有機農業の観点から“いい野菜”を作っていると思っていたけれど、科学的に見ればそうではなかった。そこで及川先生の協力を得て、エビデンスのある野菜作りを決意したのです」

現在、「シモタファーム」ではハーブを中心に年間約120種類の野菜を作っている。来春からは貸農園も始まる予定だ。

エビデンスに基づいた野菜を世界に広めることで、世界中の人々が健康になってほしい。農芸家の願いである。

シモタファームの代表的なハーブ。上から、肉料理によく合うセージ。ローズマリーは甘く、爽やかな芳香が特徴で、肉料理や魚料理に。アップルミントは林檎のような甘くて爽やかな香りがあり、サラダやハーブティーに。
松前漬けの素に、刻んだイタリアンパセリ、ルッコラを混ぜる(左)。ふろふき味噌には刻んだバジルとイタリアンパセリを(右)。その他、刻んだディルを干物にのせて焼くなど、ハーブは和の料理にもよく合う。

※この記事は『サライ』本誌2022年12月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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