文/印南敦史
加齢に伴って体の力は弱くなるため、少なからず体の、そして心の働きは弱まっていくことになるだろう。
一般的に低栄養、あるいは筋力や活動量が低下するそんな状態をフレイル(虚弱)と呼ぶ。では、フレイルに陥ることなく元気で過ごし続けるためにはどうしたらいいのだろうか?
『老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』(平澤精一 著、アスコム)の著者によれば、大切なのは“70歳からの体になにが必要であるかをきちんと知ること”なのだそうだ。
とくに、タンパク質、ミネラル、抗酸化物質を補充したり、70歳からの体に合わせて生活習慣を見なおしたりすることによって、健康寿命を伸ばすことができるというのである。
タンパク質は、皮膚や毛髪、骨や歯、筋肉や内臓、血管、免疫細胞、酵素など、あらゆる細胞や物質の材料になります。
そのため、タンパク質が不足すると、新陳代謝が滞り、肌、髪、骨、歯、血管などの状態、内臓の働きなどが悪くなり、筋肉も衰えて運動量が減ります。
また、免疫細胞や抗酸化酵素なども正しく機能しなくなります。(本書10〜11ページより)
その結果、病気にかかりやすくなり、太りやすくなり、疲れやすくもなるなど、体にさまざまな症状が表れるわけだ。
また当然ながら、食生活にも配慮する必要がありそうだ。具体的にいえば、70歳からの健康を考えた場合、「朝食を豪華にし、夕食を質素にする」ことこそが理想的だと著者はいうのである。
年齢が上がれば上がるほど、栄養は不足しがちになる。なかでも高齢者に不足しがちな栄養素が、タンパク質、食物繊維、カルシウムやマグネシウムなどの各種ミネラル、各種ビタミンなのだそうだ。
このうち、タンパク質は皮膚や毛髪、筋肉や内臓、免疫細胞、酵素、ホルモンなど、あらゆる細胞や物質の材料になりますが、タンパク質を豊富に含む肉や魚などは、「硬いから」「食べにくいから」「胃にもたれるから」といった理由で敬遠されがちです。(本書184ページより)
とはいえタンパク質が不足すれば、免疫細胞や抗酸化酵素、ホルモンなどが正しく機能しなくなり、体の不調や病気が起こりやすくなる。またタンパク質が不足して新陳代謝が滞り、肌や髪の状態、内臓の働きなどが悪くなると、「体の状態がよくないから動きたくない」という気持ちになってしまうだろう。
だが筋肉は使わなければ衰えていくので、運動量が減ればますます筋肉が落ちるという悪循環が生まれ、それがフレイルを招いてしまうことも考えられる。
食物繊維は、人間の消化酵素で分解されずに大腸まで達する食品成分のことで、排便をスムーズにし腸内環境を整えるほか、血糖値の上昇を緩やかにする、血液中のコレステロールの濃度を低下させるといった働きがあり、健康の維持には欠かせません。(本書185ページより)
そんな食物繊維は穀類、野菜、果物、海藻、キノコ、豆類などの植物性食品に多く含まれるが、しっかり噛まないと食べにくいものが多いのも事実。そのため、咀嚼機能が低下している高齢者にはやはり敬遠されがちであるようだ。
カルシウムは、乳製品や小魚、葉物野菜、海藻、大豆などに多く含まれ、骨や歯の材料となるミネラルであり、骨や歯の形成やホルモンの分泌、血液凝固などに関わっています。(本書163ページより)
年齢を重ねると腎臓の働きが衰え、尿として排泄されてしまうカルシウムが増える一方、骨吸収を抑制するエストロゲンやテストステロンの分泌量が減ってしまうため、どうしてもカルシウム不足になりやすい。いうまでもなくカルシウム不足は骨粗しょう症の原因となり、骨折のリスクが高まるので危険だ。
そしてもうひとつ、現代日本人に不足気味なミネラルが、アーモンドや魚介類、海藻、野菜、豆類などに多く含まれるマグネシウム。骨や筋肉、脳、神経などに存在し、カルシウム同様、骨や歯の形成に必要なミネラルであり、心臓や血管の機能を正常に保つ働きをしている。
マグネシウムは未精白の食べものに多く含まれており、玄米100gに含まれるマグネシウムは、およそ110mgですが、白米100gには23mg、食パンには20〜22mgしか含まれていません。
現代の日本人がマグネシウム不足に陥りやすいのは、主食が玄米から白米やパンに変化したせいであるともいわれています。(本書165ページより)
またマグネシウムが不足すると、高血圧や狭心症、心筋梗塞などのリスクが高まるといわれており、カルシウムに対してマグネシウムの摂取量が少ないと、心疾患による死亡率が高くなるとの研究結果もあるようだ。
いずれにしてもこれらの栄養が不足すると、
・筋肉量や筋力、体力が低下し、疲れやすくなる
・骨密度が低下する
・肌や髪の状態が悪くなる
・けがや傷が治りにくくなる
・風邪などの感染症にかかりやすく、治りにくくなる
・意欲や認知能力が低下する
(本書186ページより)
といったことが起こりやすく、フレイル状態になるリスクも高くなる。そのため、できるだけしっかり栄養を摂る必要があるが、必要なエネルギーは夕食ではなく、朝食や昼食で摂るようにしてほしいと著者は述べている。
そうすることで、
・脂肪がつきにくく、分解されやすくなる
・体内時計のずれがリセットされ、心身の調子が良くなる
・睡眠の質が向上し、健康を維持できる
・夜間頻尿の改善につながる
(本書186〜187ページより)
など、多くのメリットが得られるという。夕食を控えめにするべきだという意見を聞くことは少なくないが、そこにはしっかりとした根拠があるのだ。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。