みなさんは、ギックリ腰と聞いてどんなものをイメージしますか?
重たいものを持った時になるもの、グキッと音が鳴るもの……。このふたつを想像した人は多いかと思います。しかし、とくに重たいものを持ったわけでもないのになる、しかも音が鳴らないギックリ腰も存在します。
このギクッとならないギックリ腰は、ギックリ腰症状と名付けられ、例えば新幹線の座席から立ち上がろうとしたときなどのふとした瞬間に起こり、最終的には典型的なギックリ腰と同じように立てなくなってしまいます。
典型的なギックリ腰は、腰を丸めて前屈した姿勢で重たいものを急に持ったときなどに起こりやすいことはすでに知られています。
一方、ギックリ腰症状の場合は、腰を丸める姿勢や捻る姿勢を長い時間続けたり反復することによって、徐々に筋膜筋肉が傷つくことでギックリ腰と同じ状態に陥るのではないかと推測されています。
私たちの日常生活では、長時間のデスクワークや通勤、食事、テレビ、読書など、腰を丸めたまま長時間座っていることが多いです。そのため、ギックリ腰症状にも気を付けなればいけません。
そこで今回は、ご家庭などでテレビや本を読むときの典型的なギックリ腰及びギックリ腰症状(以下、ギックリ腰(症状))を予防する姿勢についてご紹介します。
■意外と知らないギックリ腰の予防をすべき理由
そもそも、ギックリ腰(症状)はなぜ予防が重要なのでしょうか。その理由は、3つあります。
(1)自分で簡単に直せるようなものではないから
ギックリ腰は、腰背中の筋膜筋肉の捻挫や肉離れで、簡単には治りません。湿布や飲み薬は一時的に痛みを緩和しているだけに過ぎず、治ったと思っても、痛みに慣れ落ち着いただけで、傷痕は残っています。
これが新たなギックリ腰(症状)や慢性腰痛に移行する火種になってしまいます。
(2)ギックリ腰(症状)は繰り返せば繰り返す度に回復が鈍り、症状が複雑化するから
傷めるたびに筋膜が伸び切り粘弾性や弾力性が低下していきます。また、常に同じタイプのギックリ腰というわけではありません。違うタイプのギックリ腰(症状)が新旧入り乱れ複雑化しさらに回復を妨げます。
(3)ギックリ腰(症状)は慢性的腰痛、坐骨神経痛、脊柱管狭窄症へ移行しやすいから
ギックリ腰(症状)を繰り返すことで待ち受けているのが、腰痛の慢性化、さらには骨や軟骨など身体の深部への影響です。その代表が中高年者以上に多い脊柱管狭窄症。
脊柱管狭窄症でみられる腰曲がり症状は、まさにギックリ腰(症状)で生じた腰曲がり症状の名残りです。ギックリ腰が不完全な状態で年月をかけ徐々に慢性腰痛や脊柱管狭窄症に移行してしまう可能性は充分に考えられます。
このようにギックリ腰(症状)は、急性慢性問わずすべての腰痛の原型であり、非常に恐ろしい症状です。そのため、ギックリ腰(症状)を予防することこそが最大のギックリ腰治療だといえるでしょう。
次に、ギックリ腰を引き起こしやすい姿勢を見ていきましょう。
■ギックリ腰を起こしてしまう要注意な3つの姿勢
テレビや本を読むときのギックリ腰(症状)は、以下のような場面で起こります。
(1)捻った態勢でテレビを観る
このように筋肉をひねっていると、筋肉がねじれて血行不良が生じてしまい、続けているとギックリ腰(症状)の原因になります。
(2)床やソファで丸まった姿勢や崩れた姿勢で本を読んだりテレビを観たりする
本を読むとき、腰や背中を丸めながら読むと血行不良となり、重ダルさを生みます。胡坐で首を下げ過ぎるのも、ギックリ腰の原因になるだけでなく、首を傷める原因になります。
(3)上記の態勢から急に立ち上がる
捻った姿勢や丸まった姿勢から急に反動をつけて立ちあがろうとすると、典型的なギックリ腰を引き起こすことがあります。
■テレビや読書中のギックリ腰を防ぐ4つの姿勢
では、どのような姿勢がギックリ腰予防になるのでしょうか?
(1)テレビは真っ直ぐに観る
人とテレビの位置関係は、なるべく正対し捻らない態勢になって観るようにしましょう。家族の場合は、椅子を移動し映画館のように並んで、家族みんなが捻らない状態でみましょう。
(2)なるべく整った姿勢で観たり読んだりする
読書は極力テーブルを使い、本を起こし、肘が身体より前に出ないように、また首が急角度の下向きにならないようにして、椅子を引き骨盤を立て丸まらないようにいい姿勢を保ちましょう。
背凭れを使い姿勢維持をサポートするといいでしょう。ソファの場合も背中にマットや枕座布団などを入れ、姿勢維持をサポートしましょう。
(3)畳床生活の場合は、腰を少し高くして壁に寄りかかり本は台の上に置く
胡坐や横座りは、腰や膝が屈んだり捻じれたりするので腰や膝の悪い方にはお勧めできません。
どうしても畳み床生活の環境が変えられない場合は、腰の下に座布団を折り畳み、高くして、壁などにもたれ、負担を少なくするようにしましょう。読書は、首が真下を向かなくて済む高さの台の上に本を置きましょう。
(4)急に立ち上がらず姿勢を整えて立ち上がる
正しい姿勢を取っているつもりでも、時間が経つと少しは崩れるものです。立ちあがる前には、椅子の端まで出てもう一度背筋を伸ばして姿勢を正し、反動を使わずに足やお尻の力で身体を持ち上げることを意識して垂直に立ちましょう。
胡坐から立ち上がる際は、まず正座のような姿勢をとり、そこから足を前に踏み出してから立ち上がりましょう。
長時間同じ姿勢を続けることは疲れます。テレビ鑑賞ではCMの間に起立したりストレッチをして身体を伸ばしましょう。
読書ではタイマーを使うなどして夢中になるのを抑制するといいでしょう。理想の休憩は30分に一度。どんなに長く座っても60分に一度は休憩をしましょう。
万一、「そもそもよい姿勢が出来ない」「腰を丸めていた方が楽」「よい姿勢は痛くなる」「すぐに脚を組んだり寄りかかってしまう」といった方は、腰背中などに問題があることが考えられるので、なんらかの治療が必要です。
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今回は、テレビや本を読むときのギックリ腰(症状)を予防する姿勢についてお伝えしました。
テレビや読書は主に家庭でのことですが、会社などのパソコン作業や会議などにもあてはめることができます。
また、ギックリ腰(症状)予防は、筋トレやストレッチも重要かもしれませんが、それ以上に姿勢や所作を意識する生活習慣を身に付けることが重要です。
取材・文/堀江くらは
情報提供/田上潔(たがみきよし)
整骨タガミ代表/花田学園アスレティックトレーナー専攻科非常勤講師、柔道整復師/日本体育協会公認アスレティックトレーナー/スポーツ科学修士、1996-2008,2012-2014年 国士舘大学柔道部専属アスレティックトレーナー兼治療担当