文・絵/牧野良幸

大河ドラマ『どうする家康』は関ヶ原の戦いが放送され、いよいよ佳境に入ってきた。

僕がそもそも『どうする家康』を見ようと思ったのは、岡崎出身なのに家康のことを何も知らなかったからだ。大河ドラマを見て勉強しようと思ったのである。

もちろんドラマの描き方が史実にそったものとは思っていない。脚色が入っているものと見なしている。それでも歴史への興味というか、まずは土壌づくりになればと思って見始めたのだ。

見る前は大きく次のような疑問があった。幼稚な疑問で恥ずかしいが、あえてあげてみる。

1.竹千代の頃の家康ってどんな境遇だったの? 岡崎城には誰が住んでたの?
2.信長の死後、家康はどうやって生き抜いてきたの?
3.茶々(淀殿)って何者ですか?
4.関ヶ原の戦いで家康は誰と戦ったの?

どれも今読むと恥ずかしい疑問ばかりだ。穴があったら入りたい。大学受験では歴史を取ったが、このあたりは出そうもないとサボった、なれの果てがこれである。

しかし『どうする家康』さまのおかげでこれらの疑問も消えた。ありがたい。またこの連載でも家康に関連する映画を取り上げてきたので、だいぶ詳しくなってきた。

ということで今回も家康に関連する映画を取り上げる。先の疑問の4番目、先日大河ドラマでも放送された関ヶ原の戦いを描いた映画『関ヶ原』である。

『関ヶ原』は2017年の公開で監督・脚本は原田眞人。司馬遼太郎の小説『関ヶ原』を原作としている。関ヶ原の戦いを本格的に映像化した作品だ。

この映画の主人公は石田三成である。三成から見た関ヶ原合戦だ。

三成を演ずるのは岡田准一。偶然にも岡田准一は『どうする家康』でドスの効いた織田信長を演じていた。その力強さがこの石田三成にもある。

豊臣政権末期。三成は秀吉を暴君と認めつつも豊臣家への忠義に生き、正義を持って行動したいと思っていた。

「理不尽な世の中を変え、“大一大万大吉”の旗を立てたいのだ」

“大一大万大吉”とは「一人が万民のために尽くせば天下は栄える」という意味だと言う。石田隊の旗印にも書かれている文字である。

対する家康(役所広司)はどうか。

「三成を斬るなら太閤の没後、それも謀反の名目を着せてからだ」

「世を取るには、豊臣家の譜代大名をどれだけ抱き込めるかだ」

「豊臣家を二つに割る」

側近の本多正信(久保酎吉)との謀議で、耳かきをしながらこんな言葉がポンポンと出てくるのだから、まさに狸親父。家康はまず若き小早川秀秋(東出昌大)に目をつける。おもてむきは思いやりのあるフリをして。

三成と家康の政治抗争は激しくなり、映画ではいろいろな策略、事件が描かれる。歴史に詳しい人なら「ほう、あの逸話をこう描いたか……」と面白いだろう。

たとえば朝鮮出兵から帰還した加藤清正らが三成に不満を持ち襲撃する話。襲われた三成が宿敵である家康の屋敷に逃げ込む話など。脚本づくりは大変だったと思うが、逸話が連なるだけでドラマ性が生まれている。まさに激動の時期。

細かいところでは、三成が建築現場で指揮棒として使っていた竹杖を落とし、それを家康が拾って三成に渡そうとすると三成はそっぽを向いて立ち去る、という逸話も挿入されている。これは三成の家臣島左近(平岳大)が、

「家康にはもうちょっと、うまくやりなされ」

と悟す時に語られる。しかし三成は、

「わしには無理さ」

と取り合わない。嫌いな者には、とことん取り繕うことができないのが三成だ。

一方で自分の考え一点張りの性格を直そうとする三成も描かれる。西軍は大阪に残された東軍の家族を人質にするが、三成は考えをあらため人質が脱走することをむしろ喜ぶ、というふうに。

こうして見る者は石田三成への共感を重ねていき、三成ともども関ヶ原の戦いに突入するのである。とうとう来た、関ヶ原の戦い。

合戦のシーンは僕のような“関ヶ原初心者”には興味深い。関ヶ原はただの原っぱではなかった。山に囲まれた盆地なので、樹木の茂る所でも戦闘が繰り広げられる。武器も刀や槍、鉄砲隊だけでなく大砲も使われる。たくさんのエキストラを使った野外ロケは黒澤明の『乱』を思わせる迫力だ。

合戦は開始から6時間ほどで決着がついたとされているが、その間に戦場ではさまざまなドラマがあってそこもこの映画は描く。関ヶ原の戦いに詳しい人ならここでも「ほう、あの逸話をこう描いたか……」と面白いことだろう。

西軍の中には合戦中に兵を動かさない武将たちがいた。

「なぜ動かぬ!」と三成。

「今日の戦いは、めいめい勝手に全力をつくすのみ!」

こううそぶかれては三成も黙って引き返すしかない。

この映画、三成の自信と正義が空回りする場面が多い。それでも諦めない三成が同じだけ描かれてきたのだが、とうとう三成も力尽きる時が来る。

合戦をともに計画した盟友大谷刑部の隊が、東軍に寝返った小早川秀秋に攻められ全滅。盟友の死と合戦の勝敗が明らかになった瞬間、三成は天に向かって叫ぶのだ。

「うぁああああああ!」

カメラは叫ぶ三成を上から捉えるが、まるで天が見放したかのようにズームアウトしていく。

最後に三成は捕らえられ、京都六条河原の処刑場に連れていかれるが、それでもなお、

「これぞ、わが正義」

三成はまだ未来を見ているかのようである。

映画を見て関ヶ原の戦いには、そこまでの政治抗争、そして合戦の間にたくさんのドラマがあることを知って興味深かった。関ヶ原の戦いに興味がある方はぜひ見ていただきたい。

最後に『どうする家康』をご覧になっている方のためにひとつ。家康の正室、築山殿を演じた有村架純がこの映画では三成と心を寄せ合う忍者役で出演している。それも書き添えておこう。

【今日の面白すぎる日本映画】
『関ヶ原』
2017年
上映時間:149分
監督・脚本:原田眞人
原作:司馬遼太郎 『関ヶ原』
出演:岡田准一、役所広司、有村架純、松山ケンイチ、
東出昌大、北村有起哉、滝藤賢一、音尾琢真、ほか
音楽:富貴晴美

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。ホームページ http://mackie.jp

『オーディオ小僧のアナログ放浪記』
シーディージャーナル

 

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