【定年後の歩き方】「キャリア女性の老後に待っていたのは、自死生存者の娘の介護だった…」育児放棄の後悔と贖罪の果てに見つけた家族の絆～その２～
警察庁は、2023年11月10日集計の『令和５（2023）年中における自殺の状況』を発表。10月末までの令和5年の月別の自殺者総数は1万8279人。うち男性1万2513人、女性5766人だ。なぜ、これほど多くの人が、自ら命を絶つ道を選んだのか。
その理由をまとめているのが、厚生労働省自殺対策推進室と警察庁生活安全局生活安全企画課が毎年3月に公表しているデータにある。
それを見ると、健康問題のみならず、過労、生活の困窮、いじめなど社会要因も多く、多くの問題が連鎖した先に、追い詰められた先の死があることがわかる。誰かが声をかけたり、手を差し伸べるだけでなく、自ら助けを求めていれば違う未来があったのではないかと想像してしまう。
直近のデータを抜粋すると、2021年の自殺者数は総数2万1007人。男性は前年比116人減の1万3939人で12年連続の減少。女性は前年比42人増で、7068人。これは2年連続の増加だ。
2022年の自殺者数は、2万1881人。男性は前年比807人増の1万4746人で13年ぶりに増加。女性は前年比67人増の7135人で3年連続の増加だ。
利代子さん（65歳）は、現役時代に広告代理店に勤務し、キャリアをまい進してきた。定年後の今は娘（35歳）の介護をしているという。定年前の利代子さんは、スリムな体を高価なスーツに包み颯爽と働いており、子供がいることは想像できなかった。
2年前に娘は当時住んでいたマンションの4階から飛び降りるも、一命をとりとめる。しかし、体に麻痺が残り、車いす生活を余儀なくされている。また、感情のコントロールが難しくなる高次脳障害もあるという。
前編では、男尊女卑社会を生き抜いてきた利代子さんのキャリアと、妊娠までを紹介した。後編では現在の生活と思いを語っていただく。
【これまでの経緯は前編で】
娘には母乳も上げたくなかった
妊娠・出産したらキャリアが断たれると思った30歳当時の利代子さんは、臨月まで妊娠を隠し、2週間の休職をして、すぐに職場復帰する。
「もともと太りつつあり、娘の父である不倫関係の上司からも、肥満を理由に別れを切り出されていました。肥満の女性に与えられる案件も少なくなり、臨月になったあたりで、子宮関連の病気の手術だと病休を申請。そのときに、同僚から“オマエはあばずれだから、そういうシモの病気になるんだよ。元気になってまた帰って来いよ”と言われました。当時の私にとっては、同僚のその言葉が嬉しかったのですが、今なら大問題ですよね」
当時の男性は、家庭を顧みずに仕事をすることが美徳とされていたので、妊娠中の女性の変化や体の動きを知らない。そのために気付かれなかったという。
「私の実家は東京都心にありますが、両親と同居する姉夫婦とうまくいかずに家を出ていたんです。まあ、義兄が私に手を出そうとしたって話なんですけどね。実家から遠のいていた私が、臨月のお腹を抱えて帰って来たから両親は腰を抜かしていました（笑）。姉はとっくに離婚していて、実家で3歳の娘を育てていたんです」
利代子さんは家に帰った翌日に産気づき、早産ぎりぎりの37週で出産。安産だったこともあり、体のダメージは少なく、産後2週間で職場復帰をした。現在、産後の女性（多胎は除く）は2か月程度休まなければ仕事に復帰はできない。驚異のスピード復帰だ。
「誰にも妊娠がバレてませんからね。娘はウチの母と姉に育ててもらうことにしました。私、子供が嫌いなんですよ。うるさいし、言うことを聞かないし。ミルクで育てることが前提なので、母乳もあげませんでした。当時、母乳が推奨されていて、“自分のおちちで育てない人は、母親失格”と面と向かって言われ、泣いていた人もいたんです。私は別にそんな声はどうでもいいので、“ミルクもらいます”って、助産師の目の前を通ってミルクをあっためてました」
娘のことは「産んだ」というだけで、ほとんど一緒にいないので、母性は湧いてこなかった。助産師の産後指導が厳しく、自分では育てられないと思った。そして、母や姉が育てたほうがいいと直感し、実行する。
「両親も余裕があり、姉は母性の塊の人なので、娘を育てることを快諾してくれました。私と娘は土日に会うのみ。両親は娘を猫かわいがりして、“こんなにかわいい盛りに娘を見ないなんて”と言われましたが、そんなことをしていたら仕事はできない。でもそんな生活が終わったのは、娘が13歳のとき。父がクモ膜下出血で急死し、事業借金の返済を迫られました。抵当に入っていた実家を売却することになり、母と姉親子は近くのマンションを購入。そこに娘はいられないので、私と生活することになったんです」
【オマエなんて、生まれてこなければよかったんだ……次のページに続きます】
