文/印南敦史

たとえば旧友と再会したときなどに、「◯◯さん、最近なんだか老けたよね。すっかり様子が変わっちゃったというか……」というような話をすることがあるかもしれない。

個人的にはまだそんな経験をしたことはあまりないのだが、それとて時間の問題。これから歳を重ねていくごとに、似たような機会は間違いなく増えていくのだろう。

このことに関して、『いつまでもハツラツ脳の人』(和田秀樹 著、日刊現代)の著者が指摘していることがある。たいていの場合、この「◯◯さん」は70代から80代の人のはずだろうというのだ。しかも彼らは現役時代、会社や組織のなかでバリバリと仕事をこなしていた人だったりすることが多いらしい。

だが、そういう人も確実に衰えていくし、そんな「◯◯さん」は、最近よく耳にする「フレイル」という状態にあると考えられるのだそうだ。

「フレイル」とは、「虚弱」という意味ですが、70代、80代になって、身体や脳の機能が劣化し、活力がかなり低下した状態をいいます。

・歩くのが遅くなった
・口数が少なくなった
・外出が減り、人と会わなくなった
・話の理解が遅くなった
・飲食時にむせる
・………………(そのほか、いろいろな症状)
(本書「はじめに……生きているかぎり『健康脳寿命』を維持しよう」より)

専門医を受診しても認知症と診断されることはないものの、こうしたさまざまな症状が生まれるということである。しかも放っておけば、健常と要介護の中間ともいえる軽度認知障害、さらに進行すれば認知症になる可能性も否定できないというので、まさに「健康寿命」の危機だ。

いうまでもなく健康寿命とは、医療上の制約がなく自立して生活できる期間のこと。したがって非常に重要な基準となりうるわけだが、著者はもうひとつ、「健康脳寿命」を重要視したいとしている。

長寿は大いに結構なことだが、健康な脳を維持できなくなってしまったのでは、せっかくの長寿時代を楽しむことができなくなってしまう。だからこそ、生きる時間の長さとともに、“生きる時間の質”を劣化させずに生きることを目指そうという考え方だ。

そこで本書では、元気な脳を「ハツラツ脳」、元気を失いつつある脳を「ヨボヨボ脳」と呼び(もちろん医学用語ではない)、健康脳寿命を死ぬまで維持していくためにどうするべきかを説いているのである。

とはいえ、それは決して難しいことではない。それどころか、紹介されているのはすぐに取り入れられそうなことばかりである。大仰に生活を変えるのではなく、ちょっとしたアレンジをすることこそが大切なのかもしれない。

たとえば、人との接し方。人と接することで脳の活性化を促進するのはとてもいいことなのだが、そこには問題もあるのだそうだ。つまり、「どういう接し方をするか」である。

・原則としては、協調性を忘れずに、お互いに上機嫌になれる関係を築く(本書28ページより)

高齢者が人と接する際には、このことを心がけるべきだというのだ。たしかに周囲を見渡してみれば、これにあてはまらない高齢者は決して少なくない。そしてそういう人はしばしば、若い人から「老害」などと揶揄されたりもする。そうなってしまわないためにも、これは大切にしたいポイントではなかろうか。

とはいっても、自分を捨てて、最近よく耳にする「同調圧力」に屈しなくてはいけないという意味ではない。それどころか年齢に関係なく、自分の主張を持ち、譲れないものに対しては毅然とした態度で臨むというスタンスは正しいはずだ。また、そうした権利は保障されなければならないものでもある。

しかしその一方、こう考えてみることも必要なのだ。

・世の中には、どうしても譲れないことと、譲ろうが譲るまいがどうでもいいことがある(本書29ページより)

たとえば政治や信仰、社会正義に関わる問題などについては、意見を異にする相手に同調するわけにはいかないこともありうる。自分の存在意義(アイデンティティ)を否定されるようなテーマについては、譲れない局面もあるわけだ。

一方、食べ物の嗜好、ファッション、趣味、好みの異性(同性)のタイプなどといった話題の場合はどうだろう?  それらは自分の存在意義を脅かすようなものではないのだから、闇雲に自分の主張を訴えるのではなく、ときには「譲る」「どちらでもいい」というスタンスを維持することも重要なのではないだろうか。

ところが高齢者のなかには(年齢は無関係かもしれないが)、「どちらでもいい」というスタンスがわからない人がいる。いかなることに対しても、まず「NO」を口にする、あるいはどうしても素直に「YES」と認められないようなタイプだ。しかし、それでは人間関係も良好になるはずがないし、脳にとってもよくないようだ。

「肯定、尊重、譲歩」よりも「否定、無視、固執」を選ぶのです。ひと言でいえば「頑迷」。これはヨボヨボ脳の兆候です。(本書30ページより)

これは、ぜひとも記憶にとどめておきたいことだ。ヨボヨボ脳よりはハツラツ脳であり続けたほうが生きやすいに決まっているし、なにより無理なく「YES」と認められる人生のほうが、ずっと快適であるはずなのだから。

『いつまでもハツラツ脳の人』
和田秀樹 著
日刊現代

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

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