コロナ禍の影響で我慢する生活が長引き、メンタル面の不調を訴える人が増えています。それは、子どもたちも例外ではありません。自律神経の専門医で順天堂大学医学部の小林弘幸教授は、「いちばん危ないのは子どもたちのメンタルだ」と危惧しています。小林先生の著書『本番に強い子になる自律神経の整え方』で、深刻な現状になっている子どもたちに対して、大人は何をするべきなのかを伺いました。

文/小林弘幸 

自律神経は子どものほうが崩れやすい

「うちの子は“いざ”というとき、どうも実力が出せない」
「あがり症なのか、人前でうまく振る舞えない」
「授業参観などがあると、すごく緊張してしまう」
「同年代の友だちと比べて覇気がないように見える」

こんな親御さんたちの悩みが、自律神経の専門医である私のところにも、たくさん寄せられてきます。

自律神経はその名の通り「自律」していて、自分ではどうにもなりません。「緊張したくない」と思うと余計に緊張してしまいます。胸はドキドキ、手に汗をかき、顔は赤く……となってしまうのも、すべて自律神経の乱れによるものです。

大人だって、大事なプレゼンでメンタルのコントロールがうまくいかず、思うような結果が残せなかったなどということがあるでしょう。子どもたちも、まったく同じです。

ところが多くの親たちは、「幼い子どもというのは、大人とは違って天真爛漫なはずだ」という思い込みにとらわれているようです。そのため、わが子が精神的に弱かったり、過敏な様子を見せたりすると、どうしても不安になってしまうのです。

実際、子どもたちは、テストや面接、スポーツの大会、発表会など、子どもなりの「ここ一番」があるときには、前の晩に眠れなかったり、緊張しすぎたりして失敗してしまう、ということがよくあります。とくに、受験などの“大一番”を控えている親にとっては、そんな子どもをどう勇気づけていったらいいのか、心配は尽きないことでしょう。

しかし、もともと子どもは、大人よりも精神的に脆い存在です。自律神経の乱れは、むしろ大人より子どものほうが深刻なのです。

考えてもみてください。コロナ禍はもちろんのこと、大震災や悲惨な事件など、私たちの周囲には、社会の安寧を揺るがす要素がごろごろ転がっています。それによって味わう不安感、恐怖感に大人も子どももありません。

子どもの心は「親の“合わせ鏡”」

それでも、大人なら身の施しようがわかっています。

大人には家庭だけでなく、職場や飲み仲間、ママ友のネットワークなど、いろいろな世界があり、情報交換したり慰め合ったりできます。お酒やギャンブル、買い物などでストレス解消を図ることもできます。ときに、都合の悪いことからは逃げたり、噓をついたりしながら、なんとか日々を乗り越えていくこともできるでしょう。

一方、子どもには逃げ場がありません。子どもにとっては親こそがすべてです。ところが、その親もまた、さまざまな理由でメンタルがやられています。そうした親たちが発する言葉や態度を敏感に察知することによって、子どもたちの精神状態はさらに悪化していきます。

子どもの心は「親の“合わせ鏡”」です。親の不安定さは子どもに伝播(でんぱ)します。

スポーツの試合を見ていても、たとえば、野球で投手の調子が乱れると、それがほかのメンバーに伝わって野手のエラーを呼んだりします。逆に、乗っている選手が1人いるだけで、チームの力が最大限に引き出されることもあります。まさに、自律神経の働きは伝播するわけです。

他人同士ですらこんな状況です。親の自律神経がしっかり整っているのに子どもだけが乱れているということはほとんどなく、親の自律神経が乱れているのに子どもはしっかり整っているということもありません。

めまぐるしく余裕がない現代社会は、そもそも自律神経の働きを阻害する条件が揃っています。そこへ持ってきてのコロナ禍によるマスクの着用や行動制限の長期化という事態に襲われているのです。

「ポストコロナ」の新たな問題

かくいう私自身も、医療従事者として対応すべき仕事が激増したことに加え、人々とのコミュニケーションやレクリエーションの機会が失われたことで、かなりメンタルをやられていました。日々、はつらつと過ごしていた友人、知人の多くも同じ状況に陥りました。

笑うことすら忘れかけている自分に「このままではまずい」と感じ、このあと本書で紹介するいくつかの方法を用いて、意識的に自律神経を整える努力をしています。私にとってこんな経験は、かつて外科・救急医療の現場で過酷な激務に晒され、寝る暇もなかった若い頃以来のことです。

自律神経の専門家である私ですら、これだけの影響を受けたのです。どう対処していいかわからないコロナ禍にあって、みなさんが親子揃ってメンタルボロボロになっていたとしても、おかしなことではありません。

さらに私が危惧しているのは、これは今の問題だけでは終わらないということです。どんな災禍でも、騒動の渦中にあるときは精神的に火事場の馬鹿力のようなものが働き、なんとか乗り切ることができます。その分、収束してから一気に不調が押し寄せます。コロナが落ち着いた後のいわゆる「ポストコロナ」の時期にこそ、新たな大問題となってくる可能性が高いのです。

もちろん今後、コロナ禍以外にも、さまざまな災害や事件が私たちを襲うでしょう。そのたびに、大人たち以上に子どもたちのメンタルは蝕まれます。そういう危機意識を持って、普段から、わが子とご自身の自律神経を整える術を習慣化していく必要があります。

自律神経の回復には時間がかかる

コロナ禍によって私たちの日常生活や価値観は大きな変化を強いられました。ですが、もともと自律神経は環境の変化に弱いものです。

たとえば、ゴールデンウイークや夏休みなどの長期休暇の後には、子どもたちの不登校やビジネスパーソンの出社拒否などが増えます。無理をさせれば、自殺に至るケースすら報告されています。

なぜ、休み明けになるとメンタルがやられやすくなるのか。単純に「楽しい休みがもう終わってしまった」「これ以上、勉強したくない」「また会社に行かねばならない」という憂鬱感だけの問題ではなく、自律神経が乱れていることが最大の要因です。

それまでは、気が乗らないなりに毎日、同じように通学や通勤をしていたのが、長期休暇に入り、生活リズムが大きく変化します。そして、変化したリズムにようやく対応していけるようになったくらいのところで休暇が終わり、また、前のリズムに戻らなければならない。一度、乱れた自律神経がもとに戻るまで、場合によっては2〜3週間以上もかかることがあります。

現代の日本における引きこもりの問題や自殺率の高まりは、その人たちの心の問題としてばかり捉えるのではなく、もっと科学的なフィジカルへのアプローチが解決のためには必要です。

今後、大人たちの勤務形態はもちろんのこと、小中学校をはじめとした学習の場においても、さまざまな変化が続くでしょう。そのたびに、子どもたちの自律神経は、程度の差こそあれ乱れていきます。

しかし、先にも述べた通り、子どもは自らの状態に対する認識が浅く、また、大人にうまく伝えることも苦手です。そんな子どもたちの状況は、親や周囲の大人たちが気づいて守ってあげるしかありません。そうした認識に立って、子どもたちの自律神経について考えていきましょう。

日々の暮らしの中で、親子が比較的容易に、そして一緒に行える方法を中心に紹介していきます。それらを実践しながら自律神経を整え、この難局を乗り越えるだけでなく、自分の持つ力をいつでも最大限に発揮できるようになりましょう。

* * *

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小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任する。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」としても知られ、腸内環境を整える味噌汁や自律神経を整える呼吸法やストレッチを考案するなど、健康な体と心をつくるためのさまざまな方法を提案している。

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