文/小林弘幸

「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。

【小林式処方箋】小言が始まったら皿を洗う。

フロリダ州立大学の皿洗い研究

怒ることで生まれるさまざまな弊害については、繰り返し述べてきました。怒りが生まれそうな状況から、君子危うきに近寄らずで争いごとを避け、「見ざる」「聞かざる」「言わざる」の「三猿」を徹底していれば、「怒る」場面から自分を遠ざけることができます。

しかし、仕事の上司や取引先だけでなく、家庭でも突如として襲われることがあります。

それが「犬も食わぬ」とされる夫婦喧嘩です。

パートナーからぶつけられるイライラや小言は、同じ屋根の下にいるだけに、なかなか避けづらいものがあります。心ないひと言をぶつけられ、怒りが着火してしまったということも、少なくないと思います。

そんな時は、争いを拡大させず、さっと後方退避。さらに、乱れてしまった自律神経を整えるため、早急にアクションを起こさなければなりません。

先に述べた「沈黙」や「階段の上り下り」などの対策も効果的ですが、家庭で実践するなら、ベストな方法があります。それが「皿洗い」です。

皿洗いにどんな効果があるのか、さすがに訝しく思うかもしれませんが、実は歴とした研究結果が報告されているのです。

米国フロリダ州立大学のアダム・ハンリー博士らの実験によると、皿洗いには、著しいストレス解消効果があるというのです。

実験では、51人の学生をA、B、2つのグループに分け、Aには、「皿洗いの作業手順だけを書いた指示書」をあらかじめ読ませ、Bには、「気持ちを込めて皿洗いをやるための指導書」を読ませてから、皿洗いをやらせました。

Bチームの指導書にはこう書いたそうです。

「皿洗いをつまらないと思わず、自分が皿洗いをしていることをしっかり意識し続けること。立って皿を洗う自分は素晴らしい。自分の呼吸、存在、行動を感じよう。そうすれば、自分が波に浮かぶペットボトルのように、ふわふわと周囲に流される存在ではないと思えるはずだ」

そしてA、Bともに、皿洗い前後の学生たちの気分の変化を測定しました。するとどうでしょう。

Bチームのみ、「いらだち」の感情が軽減する効果が見られたというのです。

皿洗いは、どう考えても単純作業です。

しかし、はっきりとした「目的意識」を持って臨めば、そこから幸福感や満足感を得られるということです。

「自分の呼吸、存在、行動を感じよう」というやり方は、瞑想法「マインドフルネス」と同じ考え方ですね。

洗剤の泡の感触、水の手触り、皿やコップひとつひとつの重み。きれいになっていく変化を実感しながら、今、自分がやっていることだけに集中してください。心は穏やかになっていくでしょう。

つまりマインドフルネス的皿洗いを実行すれば、夫婦喧嘩で自律神経が乱れてしまったとしても、早急に落ち着きを取り戻し、おまけに幸福感を得られるのです。

さらに、相手から「洗ってくれてありがとう」などと言われた日には、仲直りもできていることでしょう。

しつこい怒りは「引き出し」にしまう

私の場合、相手が感情的になっているなと思った時は、戦いを挑まず、ちょっと引いて、相手の話に耳を傾けるようにしています。

反論はせずに、相槌をうつか、もしくは黙っています。相手の話にカチンときて、売り言葉に買い言葉で応酬してしまうと、もう後戻りできなくなるからです。犬も食わない夫婦喧嘩で、自分の自律神経を乱したくありません。

しかし万策を尽くしても、やはり腹が立ってしまうことはあります。夫婦喧嘩に限らず、人間関係ではこうしたことが起こりえます。

こうした際、もうひとつの処方箋は、「引き出しに収める」という方法です。

怒りが解消しないなら、それを無理に解消したり鎮めようとしたりするのではなく、怒りをそのまま丸ごと、「心の引き出し」に入れてしまうのです。

その際、自分が引き出しを開けて、中に怒りを入れているシーンを強くイメージしてください。イメージがうまくいかないなら、実際に怒りの原因を紙に書き、本当に自分の机の引き出しにしまってください。

引き出しにしまったら、いったん忘れます。なるべく見ないふりをして、「もう処理した」ということにするのです。

自分がクールダウンできていると思ったら、それが翌日でも1週間後でも1年後でも構いませんが、そっと引き出しから取り出してください。イメージした人は、頭の中から取り出します。

すると、怒りの原因がどこにあったのか、問題の根本は何なのか、そういうことが見えてきます。冷静な判断ができる状態なので、効果的な解決法が見えてくるかもしれません。

頭から取り出そうとしたら、思い出せない? きっと、その程度の怒りだったということでしょう。この方法はビジネスシーンにも応用できますので、試してみてください。

  『不摂生でも病気にならない人の習慣』

小林弘幸 著

小学館
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文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。

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