ひとり暮らしになってから、禅寺の朝食を基本に1~2品プラス。クリエイターの創作の源は、白粥と具沢山の味噌汁だ。

【谷内田孝さんの定番・朝めし自慢】

前列左から時計回りに、白粥(粗塩)、漬物(沢庵・赤蕪)、長芋の三杯酢(刻み海苔)、箸休め(野沢菜の山葵漬け・きくらげの佃煮・梅干し・紅生姜)、水菜のお浸し(鰹節)、味噌汁(人参・じゃがいも・玉葱・豆腐・三つ葉)。味噌汁の出汁は昆布、鰹節、干し椎茸で取る。具の人参とじゃがいもは皮付きのまま使う。水菜のお浸しには醤油をかけて食す。箸休めと水菜のお浸しの器は、岐阜県多治見市・蔵珍窯(ぞうほうがま)の乾山(けんざん)写し、長芋の三杯酢は同窯の赤絵だ。
昼となく夜となく、一服する時に愛飲しているのが「とろとろしょうが湯」(写真上)(20g×5袋入り)600円(税別)。茶三代一/島根県出雲市長浜町729-6 電話:0120・97・9233)だ。
しょうが湯の友は山梨県甲州市『阪本農園』(電話:0553・33・2709)の枯露柿(干し柿)がお気に入り。

朝は早い。「4時前後に起床。6時頃まで絵を描いて、それから40分ほどの散歩が日課。帰ってから準備をして、朝食は10時頃。昼は抜くことが多く、夕食は午後5時。6時以降はモノを口にしません」と谷内田孝さん。

コンピュータ万能の現代にあって、和紙に毛筆で描かれた建築図面がある。

「こんなアナログ人間は、世界でも私ひとりでしょう」

と笑うのは、グラフィックデザインやスペースデザインを手がけてきた谷内田孝(やちだ たかし)さん。すべて独学だ。昭和56年、37歳で「谷内田デザインスタジオ」設立。63歳で閉鎖するまで300件近いプロジェクトに関わった。この間、図面はすべて毛筆や赤鉛筆で描いたという。

総合プロデュースと基本設計を請け負った『日立ハイテクサイエンス小山事業所』(静岡県)食堂棟の内部より富士山を望む完成写真(上)とその図面(下)。図面は和紙に毛筆、その他の道具は三角定規2枚とスケールのみで、すべてフリーハンドで描くという。

昭和19年、北海道・函館生まれ。自分の未来は東京にあると、16歳で上京。その頃の青年の夢は映画監督であった。黒澤明監督の『七人の侍』が、その原点である。監督への道を模索しながら、「東映動画スタジオ」や「東宝映画円谷プロダクション」で働き始める。

その頃に出会ったのが、その後の人生設計に何かと影響を与えてくれた北嶋キミ江さんである。

「私が上野の東京国立博物館の前庭に佇んでいた時、声をかけてくれたのが北嶋キミ江先生でした。私の母より4歳ほど年上で、日本伝統の染織作家。千葉県市川市の先生のご自宅に通って、多くのことを学びました」

人生の師となった北嶋キミ江夫妻をご自宅に訪ねた折の一葉。手前が北嶋夫妻、後列右が谷内田さんの奥様の完子(さだこ)さん、左が谷内田さんの息子の真人(なおと)さん。キミ江さん76~77歳の正月の記念写真で、撮影は谷内田さん。

21歳で印刷会社に転職。製版、印刷などを学び、デザイン部ではグラフィックデザインの勉強をする。26歳でグラフィックデザイナーとして独立。前述したように37歳でデザインスタジオを設立するが、63歳で閉じて自由人となった。

右下の『旭化成ライフ&リビング』のロゴマークデザインは「谷内田デザインスタジオ」が手がけた。『サランラップ』のグラフィックデザインは、谷内田さんの代表作だ。
『横浜日航ホテル』(今は閉館)開業プロジェクトのメンバーと東京・南青山の「谷内田デザインスタジオ」で。右からソムリエの林さん、谷内田さん(40歳頃)、長男の真人さん、建築家の北井さん、日航ホテルの橋本さん。

『分とく山』からのプレゼント

「禅との出会いで、今の私の朝食が完成しました」

というように、岐阜県美濃加茂市の禅寺、正眼寺に定期的に通うようになり、朝食は白粥になった。

「奥さんが元気な頃はご飯に味噌汁、焼き魚といった朝食でしたが、4年前に亡くなってからは禅寺の朝食が基本です。残り物のご飯を集めて白粥を炊き、家ではそれに1~2品、酢の物や浸しなどを加えます。味噌汁も一菜となるように具沢山にするのが谷内田流です」

ひとり暮らしの谷内田さんにとって心強いのが、日本料理店『分(わけ)とく山』の野﨑洋光さんだ。40年来の親友で、月に2~3回は特製の惣菜やお握りなどを届けてくれるという。それもこれも積み重ねた“徳”の賜物であろう。

絵を描くこと、書を書くことが生きる糧である

平成5年、人生の師であった北嶋キミ江さんが亡くなった。享年89。逝去のまさにその時、谷内田さんは京都・三十三間堂の仏像に見入っていたときに知る。

「その日からライフワークだった三十三間堂千三十一体なる全仏像を描き上げ、先生に捧げようと決心。14年かかりましたが、それが『三十三間堂への道』です」

翌18年には、「三十三間堂の墨彩仏画展」を開催。これをきっかけに臨済宗妙心寺派正眼寺の住職、山川宗玄師と出会う。会社を閉めた半年後のことで、人生の転機となった年でもある。

平成17年、『三十三間堂への道』を上梓。師である北嶋キミ江さんに捧ささげる三十三間堂全仏像の墨彩画で、14年の歳月を経て完成した。原画は福井県の清大寺に寄贈。

正眼寺僧堂に通う日々が始まり未来道場体験セミナーなどをプロデュース。また、2年前からは正眼短期大学に一学生として入学、新たなる学びが始まっている。

「自由人になってからずっと絵は描き続けていましたが、正眼寺に通うようになって書も書くようになりました。絵や書を書くことが生きる糧で、生きる糧をもっていることで毎日が楽しいのです」

画号は“ 魚心”。水のことで命の源という意味。北嶋キミ江さんがつけてくれたという。

生きる糧だという絵は、元グラフィックデザイナーらしく大胆な構図と省略が特徴だ。題材は花木や野菜、魚など。特別な道具は使わない。絵具は顔料で40色ほど。紙は越前和紙や石州和紙、墨は奈良の古梅園製を愛用。
谷内田さんが“私の絵日記”と呼ぶ『谷内田孝76年の杣道 生きる 歌思帳の日々』(湘南社 電話:0466・26・0068)。絵の他、和歌や俳句、書も掲載され、谷内田ワールド満載。

※この記事は『サライ』本誌2022年5月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

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