朝食は自ら作る80歳。ラジオ体操の前に下ごしらえを終え、数ある常備菜を少しずつつまむのが朝の楽しみ、元気の源だ。

【小林一夫さんの定番・朝めし自慢】

前列中央から時計回りに、ご飯、納豆(長葱・芥子)、ぎばさ(秋田県八森地区の名産品である、ホンダワラ科アカモクという海藻)、らっきょう、梅干し、うぐいす豆、ぶどう豆、わさび漬け、高菜の油炒め、鰻の山椒煮、味噌汁(しじみ・油揚げ・豆腐・なめこ・牛蒡・長葱)、中央右は塩鮭、左は胡瓜の古漬け。鰻の山椒煮は、市販の焼いた鰻に実山椒を加え煮たもの。味噌汁のしじみは青森・十三湖産の粒の大きいものを愛食。油揚げとともに冷凍保存してる。常備菜の小鉢はトレーにまとめて冷蔵庫へ。箸置きは箸袋で折ったものだ。

ラジオ体操から帰った後、朝食は7時頃。「朝は僕が作る人で、家内が食べる人。昼はパン、夜は家内手作りの酒肴で晩酌を楽しみ、ご飯の類は食べません」と小林一夫さん。
なれた手つきで、朝の味噌汁に入れる牛蒡を薄切りにする。「牛蒡を入れると出汁が出て旨くなるんだよ。長葱の青いとこも同じ。牛蒡も葱も食べないで、残しちゃうけどね」と小林さん。

東京・湯島にある『お茶の水おりがみ会館』(旧・ゆしまの小林)。そのルーツは、安政5年(1858)まで遡る。『ゆしまの小林』4代目で、現・館長の小林一夫さんが語る。

「初代・幸助は、上野寛永寺の仕事などを手がけた経師でした。やがて和紙全般の加工技術を習得し、この地で“染め紙業”を始めたのです。それが『ゆしまの小林』の始まりで、お陰さまで160年の歴史を刻んでまいりました」

初代・小林幸助。東京・湯島の450坪の土地に『小林染紙店』を作ったのが、現在の『お茶の水おりがみ会館』の始まりだ。

明治に入ると、文部省の要請で世界で初めて製品としての折り紙を製造販売。初代文部大臣の森有礼が、ドイツの教育学者、フリードリッヒ・フレーベルの教育要領をもとに、折り紙を教育に採用したからだった。

昭和に入ると、玩具業界が折り紙を“おもちゃ”として発売。これが世界中に普及するきっかけとなり、昭和47年には『お茶の水おりがみ会館』をオープンした。

小林さんが本格的に折り紙を始めたのは、30代に入った頃からだ。

「門前の小僧で自然に覚えました。折り紙は親から子へ、手から手へと伝えられたもの。最近は“創作”とかいって、作品に名前を入れる人もいるようですが、折り紙は誰のものでもない。日本人の心に根ざした伝承遊びなのです」

平成18年、「国際おりがみ協会」を設立。海外での教室や講演などを通じ、世界各国に折り紙の楽しさを紹介。ロシア・サンクトペテルブルグで実演後の記念撮影(2012年)

ラジオ体操、仮眠、折り紙

小林さんの朝は早い。午前4時起床。朝食の下ごしらえに入る。

「朝は僕の担当。まず米を磨いで炊飯器にセットし、味噌汁は味噌を溶く直前まで仕上げておく。それから散歩がてら、ラジオ体操が行なわれている神田明神まで出かけるのが日課です。ラジオ体操は初詣客のいる正月を除いて、雨の日も欠かしません」

朝食は塩鮭と納豆を欠かさず、さらに小鉢が並ぶのが定番の食卓。幾種類もの常備菜を少しずつ、好みでつまむのが朝の楽しみだ。

朝食後と昼食後は30分ずつの仮眠。加えて、朝のラジオ体操と週2~3回の徒歩での買い出しが健康の秘訣だが、それより何より老化防止に効果があるのが折り紙だ。

午前6時30分から、自宅近くの神田明神境内でのラジオ体操が日課だ(最後列の後ろ姿)。30年以上続けていて、以前は上野公園まで散歩がてら通っていたが、70歳を過ぎてから近くの神田明神へ。毎朝、顔なじみの30人ほどが集まる。

「僕は“指の森林浴”って呼んでいるけど、折り紙を折るという動作が脳に良い刺激を与え、色彩感覚や想像力、集中力も養ってくれるんだよ」

小林さんの作品「大黒天」(左)と「恵比寿」。いずれも七福神のひとりとして信仰され、正月などの祝いの席にふさわしい伝統折り紙だ(折り方は、下写真の著書『縁起のいい伝統折り紙』に掲載)。
著書150冊以上の中から最新刊3冊。右から『折り紙は泣いている』は、折り紙の著作権、教える資格などの17話。『折紙の文化史』は祈り、願い、遊ぶという折り紙の歴史を説く。『縁起のいい伝統折り紙』は縁起物の十二支飾りなど、30余作品を折り方付きで解説。

日本の文化遺産である折り紙を伝承するために、一般開放へ

鶴に代表される伝承折り紙。けれど、『お茶の水おりがみ会館』に一歩足を踏み入れると、そんなイメージは一変するかもしれない。美しい和紙で折られた人形や花々が迎えてくれるからだ。

「折り紙は古く神事を起源とし、礼法や遊戯から現代の折り紙へ。さらには未来へと繋がる医療や建築、航空技術といった折り紙工学に至るまで、人類の歴史とともに進化を遂げてきました。先人たちが残してくれたこの折り紙を日本の文化遺産として守り、伝え、育てていくのが私どもの使命です。だからこそ誰にでも気軽に楽しんでもらいたいと、おりがみ会館として開放することにしたのです」

と、館長は語る。

1階は作品展示、中2階はギャラリーで国内外の秀逸な紙作品が楽しめる。3階は2000点以上の和紙や小物、道具類などが揃うショップ。4階はおりがみ会館の心臓部ともいえる染め紙工房、5~6階は教室で折り紙講座(要予約)を開催している。

足が第二の心臓なら、指先は第二の脳。折って楽しい折り紙で、健康長寿を保ちたい。

折り紙の魅力を発信する『お茶の水おりがみ会館』。東京都文京区湯島1-7-14 電話:03・3811・4025 開館時間:9時30分~18時 休館日:日曜、祝日、夏季休暇、年末年始 入館無料。
4階の染め紙工房では、染め師の萩原利充さん(47歳)の手により、2022年の干支・寅にちなんだメタルカラーに虎刷毛引きが施される。『お茶の水おりがみ会館』の和紙のほとんどはここで製作。作業は不定期だが、見学は自由。
3階ショップの一角に館長・小林さんの定席がある。運がよければ、館長の実演に遭遇するかも。歌舞伎文様の折り紙『江戸っ虎』で折った、’22年の干支の寅を手にする小林さん。和紙が豊富に揃うのも魅力だ。

※この記事は『サライ』本誌2022年1月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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