日本人は米を、とパンよりご飯党。教室がある日はご飯に常備菜。ない日はドリアか小丼が“着物守り”の活動を支える。

【鈴木富佐江さんの定番・朝めし自慢】

前列左から時計回りに、海鮮ドリア(ご飯・海老・烏賊 ・帆立・玉葱・エリンギ・ホワイトソース・溶けるチーズ)、常備菜(アーモンドフィッシュ・プチトマト・卯の花・うずら豆)、苺ミルク、漬物(べったら漬け・胡瓜の浅漬け)。常備菜のアーモンドフィッシュは市販品を蜂蜜で煮からめたもの。苺にかけるミルク入れは、夫の遺愛品である抹茶入れを利用している。
常備菜。左から時計回りに、牛肉と大根の煮物、牛肉・茸・カラーピーマンの炒め煮、ほうれん草のお浸し。いずれも野菜を摂れる工夫がある。教室がある日の朝食やお弁当のおかずに。

午前5時起床。オンラインでさまざまな早朝講座を聴きながら、朝の家事。「その後、お教室のある日は8時から朝食。簡単なお弁当を作って、10時半には工房へ」と、鈴木富佐江さん。

『さくら着物工房』は“ 造り帯”の教室である。造り帯とは、帯を切らずに結びの形にした帯のこと。考案者の鈴木富佐江さんが語る。

「65歳の時に脳梗塞を患い、右腕が上がらなくなりました。もう大好きな着物が着られない。呉服屋さんに相談すると、帯を胴とお太鼓(背の部分)に切って別々に結ぶ“二部式”を提案されたのですが、これを聞いてゾッとしました」

そう思う原風景がある。11歳になった頃、戦後の農地解放で宝物を売って生活せざるを得ない時、祖母が2本の美術帯をシューッ、シューッと畳に広げた。祖母の宝物だったこの帯も売られる運命。あの帯の音は祖母が過去を断ち切るための悲痛な叫び声だった。そう思うと帯に鋏は入れられない。

そんな時、ヒントになったのが折り紙だった。折り紙のように、帯を折りたためばいい。こうして誕生したのが“造り帯”で、今、全国に広がりつつある。

“造り帯”なら、初心者でも2分ほどで簡単に帯が結べる。写真の袋帯お太鼓造りの他、ふくら雀のような変わり結び、半幅帯、男性用の角帯まで美しく仕上げることができる。
ベルト感覚で締めることができる“造り帯”。帯を切らずに折り紙のように折り、要所を糸と針でとめて、あらかじめ帯結びの形に造ったものだ。「この帯で若い人にも着物文化が根付くと嬉しい」と、生徒の福田結子さん(53歳)。

昭和11年、満州(現中国東北部)生まれ。両親と鈴木さん、弟3人の6人家族だったが、終戦の3か月前に父が召集。同21年に父の故郷である茨城に引き揚げたが、抑留先のモンゴルでの父戦死の報は翌22年のことだった。

鈴木さんの“造り帯”には、引き揚げ体験や美術帯、闘病などの半生の歩みが投影されている。

教室にはさまざまな帯が持ち込まれ、鈴木さんの指導で“造り帯”として新しく蘇っていく。東京の本部教室の他、全国各地で弟子たちが教室を開いている(問い合わせ:090・3691・0055)。

米食で便秘解消

食べ物は薬──小学校の教師をしながら4人の子供を育てた母の口癖だった。

「給料の半分は食費だったのではないでしょうか。そんな母を見て育ったので、料理は大好きです」

という鈴木さんは、ご飯党。便秘に悩んでいた頃、釘田修吉さん(足識食癒施術法始者)の“便秘解消は日本人の大腸に合わせて白米を主食に”を実践したら快食快便になったからだという。
 
健康の源である朝食はふた通り。教室がある日はご飯に常備菜と簡素に済ますが、ない日は朝昼兼用のドリアか小丼が定番だ。

「丼は鮪丼や牛丼などで、器は亡くなった夫が残した抹茶茶碗を愛用。だから、小ぶりの丼ですね」
 
趣味は俳句。次の対句はモンゴルの父の墓前での吟である。

〈捕虜として父逝きし地の夏砂漠〉
〈モンゴルの虹大いなる回向かな〉

一服する時や来客用にミカド珈琲を常備。秋から春は、粉をペーパーフィルターでアメリカンに。夏はパックのアイスコーヒーを愛飲。コーヒーの友は同社のトリュフショコラで、レンジで温めるとさらに美味に。

自分を褒めたい夜には8勺ほどの晩酌を。徳島県から取り寄せている、自然農法で育てた米で醸造した純米原酒「比売さま」や「ありがとう」を愛飲(問い合わせ:酒蔵夢や 電話:080・3533・5146)。酒肴は手作りの無花果の甘露煮。

これからの人生、着物守りとして生きていきたい

バリアフリー着物で、簡単に着物が着られた『デイサービスセンター悠ゆう』(東京・世田谷区)の皆さん(中央が鈴木さん)。「着物を着ると皆さん、目が輝いて表情も生き生きするんですよ」とは、事務長の弁だ。

鈴木さんは造り帯に加えて、釦やファスナーを使って障害のある人もない人も簡単に着られる長襦袢や着物も考案。これらをバリアフリー着物と呼び、全国の教室で造り方を指導している。また高齢者施設などで、この着物の着付教育を開催。ボランティアだ。
 
鈴木さんのボランティア歴は長い。高校生の時から青少年赤十字奉仕団に加入し、それが縁で昭和39年の東京パラリンピックでは日本赤十字社のボランティアとして参加。選手村で折り紙を教えるなど、海外選手と交流した。

「みな明るく、おしゃべりで、お洒落を楽しんでいた。私の中で障害者像が大きく変わりました」
 
脳梗塞で右腕に麻痺が残った時、思い出したのがパラリンピックでの底抜けに明るい選手らの姿だった。着物が着られないと、ふさぎこんでいても仕方ない。できることをやろうと、思い直してたどり着いたのが“造り帯”だったのだ。

「着物を諦めなくてよかった。これからの人生、桜の里に桜守りがいるように、私は着物守りとして生きていきたい」
 
そう、固く誓う。

要所を針と糸でとめて、帯結びに造った男性用の角帯。
帯の貝の口(折り目)を持ち、胴を背中に回す。帯の紐を後ろ中心で、蝶結びに。貝の口を持ち、時計回りに回して帯結びが背中右側か左側にくるようにする。帯の前中心は腰骨よりもやや低くなる位置に固定。

※この記事は『サライ』本誌2022年3月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

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