ライターI(以下I):八重(演・新垣結衣)が御所勤めを始めるという衝撃の展開となっています。
編集者A(以下A):頼朝(演・大泉洋)の〈本心をいえばほかの知らぬ男に嫁ぐよりは小四郎の方がわしは安心〉という台詞に「なんと身勝手な!」と、怒りを覚えた方は多いのではないでしょうか。
I:この先、八重はどういうことになるのでしょうか。
A:なんとなくこういう展開になるのかな? というおぼろげな輪郭がちらつきますが、黙って見届けたいと思います。そのうえで、伊豆の国市の眞珠院にお参りしたいです。
I:さて、石橋山の合戦で窮地の頼朝を救った梶原景時(演・中村獅童)が頼朝政権に加わることになりました。〈人の間違いをいちいち直さなければ気のすまぬような男。かえって足並みを乱すことになったら申し訳ない〉――。景時自ら適格な自己分析をしていました。
A:奔放で荒々しい坂東武士の面々にとっては、景時のような人物が人の上に立たれては厄介なことだったと推察します。
I:上には犬のように振舞いながら、下には厳しく目を光らせる。現代の組織でもそういう人がいるらしいですね。そして往々としてそのような人物が要職につくとか。昔も今も変わらぬ人間模様ですね(笑)。
A:来年の大河『どうする家康』では徳川家康が主人公。鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』を愛読していたことでも知られていますが、人の上にどのような人物を立てるべきかなど、人事の要諦について学んだのではなかろうかと勝手に推測しています。
全成、筮竹占いで求愛
I:鎌倉では、挙兵以来の軍功をまとめ、和田義盛(演・横田栄司)が侍所別当になりました。安達盛長(演・野添義弘)の涙を流すシーンも織り込まれて、人事への執着・関心は昔も今も変わらないなぁと感心しました。
A:平安貴族なんかも最大の関心事が人事ですからね。非科学的な「THE 中世」は断ち切れても人事への関心は断ち切れないわけです。
I:ところで、今週は新手の求愛シーンが展開されました。
A:全成(演・新納慎也)と実衣(演・宮澤エマ)が筮竹占いを楽しむ場面ですね。〈あなたの幸運はすぐ目の前にあります。癸酉(みずのとのとり)の年、卯月生まれの~〉と・・・・。なんという求愛方法でしょう。挙兵の日次を占う際にもすべてりく(演・宮沢りえ)によって「17日」のくじが仕込まれていたことが描かれました。全成と実衣のやり取りも、ほほえましいエピソードでしたが、恣意的といえば恣意的。為政者にとってこんな便利な機能はないという場面になりました。
I:それもまた「THE 中世」なんですよね。約250年後には室町幕府の将軍を籤(くじ)で決めるという前代未聞の事態も起きますし。さて、今週は平重衡による東大寺など南都焼き討ちの場面も登場しました。2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』でも松永久秀が絡んで東大寺焼亡のことが触れられていましたが、東大寺の大仏は二度までも災禍に見舞われたんですね。
A:いずれも復興されて、現在もなお多くの参拝者でにぎわっています。
I:そして、今回、平清盛(演・松平健)の死が描かれました。
A:松平健さんは、1979年の大河ドラマ『草燃える』で北条義時を演じました。明るくって学問好きの「松平義時」が、どんどん狡猾な権力者になっていく過程に引き込まれていったことが思い出されます。今後「小栗義時」がどのように変貌していくのかほんとうにほんとうに楽しみです。
衝撃の「ブラック義経」
I:前週の源氏兄弟集結のシーンで幼いころから『孫子』をそらんじていたと紹介されていた義円(演・成河)が、頼朝から戦略を問われて『孫子』を引用してその優秀ぶりを披露します。ただ印象としては、優秀だけれども教科書に忠実なタイプ。前週の佐竹攻めの際に常識外の斬新な戦術を提案した義経(演・菅田将暉)とは真逆な存在として描かれました。しかも義経は義円のことが気に入らないようです。
A:小学生のころ滝沢秀明さん演じる義経(『義経』2005年)を見ていたうちの娘は盛んに「タッキーの義経と全然違う」とブツブツいっています(笑)。菅田将暉さん演じる義経はどうやら「ブラック義経」のようです。
I:頼朝に以仁王の令旨を伝えた源行家(演・杉本哲太)が再び鎌倉を訪れて、兵を一万ほど貸してほしいとやって大変な事態に陥ります。この行家、頼朝の父義朝の末弟ですがあまり信用されない人物だったのでしょう。ていよく断られたすえ義円にも要請します。「お力になりたいのは山々ですが」と義円もいったんは断りました。
A:ところが、ここで「ブラック義経」が暗躍します。義円に対して、遅れてきたことで立場が悪いと指摘、鎌倉殿に認められたいなら行家叔父にしたがって手柄を立てるしかないと進言します。義円は頼朝への書状を託して行家のもとに奔りますが、義経はなんと義円から頼朝への書状を破って捨てる。
I:一部始終を見ていて、敗れた書状を拾うのが梶原景時。まるで往年の『家政婦は見た』のような展開になりました。「あー、こういう展開で来ましたか!」と感じ入りました。結局頼朝にばれて義経は謹慎を命じられることになります。従来の義経とは違って、なんだかわくわくしますね。
A:前週に揃った「源氏五兄弟」に早くも暗雲が立ち込めます。「呪われた源氏一族」「血塗られた源氏一族」の幕開けです。前週の兄弟が揃った場面を思い出しては、涙を流すことが増えるんでしょう。
女子を男子に変える修法
A:政子(演・小池栄子)が懐妊して、全成と実衣が占います。その結果、全成が変成男子の法という祈祷を行なうこととなりました。これは母体に宿った女子を男子に変えるという修法です。古典『平家物語』でも清盛の娘の建礼門院徳子が出産する際に、行なわれたと記されています。しかも当時の天台座主で後白河院の実弟でもある覚快法親王(かくかいほうしんのう)が自ら法を修めたとあります。
I:現代的な感覚では、なんと非科学的な!と感じますが、当時の人々は大真面目。またまた「THE 中世!」の登場です。しかも、男子を生むには千鶴丸(演・太田恵晴)が成仏しないとダメだということになりました。そこで三浦預かりになっていた伊東祐親(演・浅野和之)を殺すことになる。しかもその刺客が伊東の家人であった善児(演・梶原善)!
A:ここで前段の、自らのほしいままに易をコントロールする全成と実衣のやり取りを思い出してみましょう。もはやなんでもありということになります。しかし、安産祈願のために恩赦ということになり、その一方で、成仏させるために刺客を送るとは……。
I:(!)。中世の権力者は恐ろしい……ですね。そして、景時が善児に対して〈わしに仕えよ〉と言い出します。なんという展開でしょう。
A:きな臭い話になっていますが、御台所の政子の懐妊で頼朝が命じたのが現在の「若宮大路」の造営。『吾妻鏡』などの記録によれば、頼朝自ら陣頭指揮をとり、義時(演・小栗旬)も自ら石を運ぶなど造営にかかわったとされています。
I:若宮大路、段葛。今もにぎわう鎌倉のメインストリートももともとは頼家誕生を期してのものだったわけですからね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり