文/印南敦史
CMやさまざまなメディアを通じ、「腸内細菌のバランスを整える」というような文言を目にする機会は少なくない。
しかし、『においは1日で消える! ──「体臭」「口臭」「加齢臭」が劇的に改善する腸の習慣』(佐々木 淳 著、自由国民社)の著者によれば、現代人はバランスを整えるどころか腸内細菌を痛めつけているのだという。
日本の食品は保存料や残留塩素などで腸内細菌をやっつけるためにあるようなものです。腸内細菌のバランスを崩すことは、病気や体の奥から臭う体臭の原因になります。(本書「はじめに」より)
歳を重ねていくほどに加齢臭の問題が身近になってくるだけに、体臭のことで悩んでいる方も少なくないはず。だが腸内細菌のバランスを保つことができれば、体臭も改善できるようなのだ。
そこで本書において著者は、腸内細菌の効力はもちろんのこと、体臭や病気などの効果のある具体的な生活習慣までを幅広く紹介しているのである。
今回はそのなかから、体の臭いと“食”との関係に焦点を当ててみたいが、注目すべきは著者がダイエットの問題に目を向けている点だ。
「炭水化物抜き」「◯◯だけしか食べない」など、ダイエットの方法も多種多様。私たちはしばしばそれらに心を奪われがちである。しかし栄養バランスを欠いた食事は、必ず匂いを発するのだという。
人に必要な5大栄養素は、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質)、ビタミン、ミネラル。人が食べたものから、タンパク質を分解する細菌、脂質を分解する細菌、炭水化物を分解する細菌、植物(セルロース)を分解する細菌がそれぞれ活躍し、エネルギーや体をつくる素、体を調整するビタミンやミネラルをつくるわけである。
ところが、たとえば人気の炭水化物ダイエットをした場合、当然のことながら炭水化物が入ってこないことになる。すると、やがて細菌は活動をやめ、逃げ出していなくなってしまうのだそうだ。そのため腸内細菌のバランスが崩れ、体のなかから臭くなってしまうのである。
一般的にバランスのいい食事と呼ばれるものは、まんべんなく必要な栄養素を取り入れる食事です。それは腸内細菌にとってバランスがいい食事。さまざまな細菌が活動しバランスが崩れることなく働いてくれます。ダイエットといえども臭いを発しないためにはバランスよく食事をすることが大事なのです。(129ページより)
ところで著者は先に触れた5大栄養素と同時に、「土壌細菌」の重要性を強調している。その名のとおり、土壌のなかに棲む細菌類のこと。
土壌細菌には、5大栄養素を分解する、タンパク質分解菌群、脂質分解菌群、でんぷん分解菌群、セルロース分解菌群が存在しているというのだ、
人の話をしていたのにいきなり土壌の話をしたので驚いた方もいるかと思いますが、私たちの腸内細菌は土壌細菌が口から入って腸に住み着いたものなのです。だから、土壌細菌を見ることは私たちの腸内を見ることと同じです。私たちは動物と植物しか食べ物として口に入れることはありません。腸内細菌はそれらの持つ栄養素を分解して、より体が吸収しやすい形にするのです。(130〜131ページより)
タンパク質分解菌群はタンパク質からアミノ酸やエネルギー、ミネラルをつくり、それらはおもに体づくりや修復に役立てられる。脂質分解菌群はエネルギーやミネラル、ビタミンなどをつくる。でんぷん分解菌群はエネルギーやミネラルをつくり、セルロース分解菌群はビタミンやミネラルをつくる。
つまり私たちが食事をするのは、腸内細菌のためだと考えることもできる。腸内細菌は受け取った食事を分解し、エネルギーと栄養を得て分解し、私たちが元気に動くために必要な物質(栄養素)をつくっているからだ。
したがって逆から考えると、腸内細菌がないと私たちが生きていくために必要な物質はつくられないということにもなる。
たとえば野菜が大事だからと野菜をたくさん食べたとしても、それを分解するセルロース分解菌群がいなければ、野菜からつくられるはずのビタミンやミネラルは得られないからである。
ものを食べるときには材料を洗い、火を使って調理をし、きれいな皿に乗せて食べることになるだろう。しかも私たちは毎日風呂に入り、石鹸でゴシゴシ体を洗って細菌を落としている。
そんな生活を続けている人間は、土壌最近の補給が下手な動物なのだと著者は指摘している。
だから意識的に、しかもひとつひとつの菌ではなくセットとして土壌細菌を取り入れるのが効率的なのです。土壌細菌は全セットを投入しても、必要なものはきちんと残り、不必要なものは体から排出されます。そしていつもバランスを取っているのです。(135ページより)
なんにしてもバランスを保つことは重要だが、私たちの体にもそれはあてはまるのだろう。そうやってバランスをとることこそが、体のなかから臭いを消す唯一の方法だということだ。
『においは1日で消える! ──「体臭」「口臭」「加齢臭」が劇的に改善する腸の習慣』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。