都会の温泉で“非日常感”に浸かる

案内人 久住昌之さん(漫画家・63歳)

昭和33年、東京生まれ。昭和56年に漫画家としてデビュー。谷口ジローと組んだ『孤独のグルメ』を始め、多くの人気作を世に送り出す。『ちゃっかり温泉』(カンゼン)などのエッセイも豊富。ミュージシャンの顔も持つ。

コロナ禍で旅行を控えたり、在宅勤務で自宅にこもりがちだったりという状況が続く昨今。息の詰まりそうな日々だが、遠出をせずとも気軽に、かつ大いに気分転換できる場所がある。都心の温泉だ。

東京都福祉保健局の調べによると、東京23区内における温泉利用施設の数は114か所(令和2年度)。そのなかには都心といえども、源泉かけ流しの湯処や、凝った造りで風情を感じさせる施設もある。中でも人気を集めているのが東京都板橋区にある『前野原温泉 さやの湯処』。どんな気分が味わえるのか。温泉や銭湯好きとしても知られる、漫画家の久住昌之さんに案内してもらった。

庭の中に佇む、離れの貸し切り半露天風呂「燈(あかり)」でのんびり寛ぐ久住さん。檜造りの風情ある空間だ。貸し切り料は1時間2100円。
広々とした露天風呂のほか、寝ながら浸かる寝ころび湯などがあり、時を忘れて楽しめる。内湯は肌触りのいい井戸水を使用。

「東京の風呂をいろいろ巡っていますが、都心でこれだけ広々とした温泉があるのは珍しい。手入れされた美しい庭といい、凝った建物の造りといい。地方の温泉旅館で寛いでいるような気分ですね」

同施設には露天風呂、岩盤浴、サウナ、休息できる座敷、垢すり処などがあり、枯山水の庭園に面した食事処で十割蕎麦に舌鼓を打つこともできる。「まるで竜宮城のよう」と湯上がりのビールを飲みながら久住さんは表情を緩めた。

男湯、女湯ともに露天の源泉かけ流し風呂もある。泉質は塩化物泉。淡いうぐいす色のにごり湯は保湿性に優れ、湯冷めしにくい。

こちらの源泉は淡いうぐいす色だが、東京の温泉処を主に紹介した『ちゃっかり温泉』という著書もある久住さんによると、都内でも所変われば湯質も変わるそうだ。

「例えば、大田区の方の温泉は黒湯といわれるほど湯が黒いんです。以前、行った蒲田の温泉は10㎝ほど沈めた手が見えなくなるほど真っ黒で、蛇口から出てくる湯も黒かった」と楽しそうに語る。

ひとりで自由に寛げる場所

浸かれば日頃の疲れがとれ、非日常感を味わえる温泉は、家族や仲間と連れ立って行くのも楽しい。けれども久住さんは「ひとりで行く楽しみも知ってほしい」と話す。

「ひとりなら自由に時間が使えて、のんびり気楽に湯に浸かれますからね。知らない人ばかりでも意外と緊張しないですし、温泉とはひとりで楽しむ場所でもあるはず」

誰に気兼ねすることなく、湯上がりに温泉内の食事処や近くの飲み屋で「軽く一杯」を昼間から楽しめる。のんびり昼寝もできる。

「まだまだ遠くの温泉に出かける気分にならない人も多いはず。そんな時は近くにある“都会の温泉”でゆっくり寛ぐという選択肢を検討してみてほしい。一時の旅行気分も味わえると思います」


前野原温泉 さやの湯処

食事処からの眺め。戦後に建てられた邸宅と庭園を贅沢に生かす。個室の食事処(2時間2100円~)もある。

東京都板橋区前野町3-41-1 電話:03・5916・3826 料金:平日890円、土・日・祝日1120円 営業時間:9時~24時(最終入館23時) 泉質:塩化物泉、含よう素泉 交通:都営三田線志村坂上駅より徒歩約8分

取材・文/安井洋子 撮影/太田真三

『サライ』12月号では、「名湯に秘史あり」と題し、聖徳太子や源頼朝、武田信玄が愛した名湯や旬の食材や名物料理を堪能できる「湯食同源の宿」を紹介。年末年始のご旅行、湯治場選びの参考にしてください。

※この記事は『サライ』本誌2021年12月号より転載しました。

 

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