文/鈴木拓也

帰省してきた我が子に「また昔の話ばかりしてる」と言われ、しょげかえったという話をよく聞く。そのせいか、年をとって「過去を懐かしむ」ことには、詩的なイメージよりも、どことなくネガティブな印象がある。

では、それが意味のないことかと言えば、さにあらず。脳科学の研究で、「懐かしさが脳にいいことがわかってきた」と説くのは、東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授だ。瀧教授によれば、認知症の進行を抑え、ストレスを解消し、幸福感を得るといった効用があるという。

実際、認知症の医療現場では「回想法」といって、昔を思い出させる写真・音楽などを活用し、症状改善をはかる取り組みがなされている。

こうした知見を生かし瀧教授は、日常生活に回想を取り入れる脳の健康法を、著書『回想脳  脳が健康でいられる大切な習慣』(青春出版社)で記している。その中で瀧教授は、ただ回想するだけでもいいが、より効果的にするための3つのポイントがあるという。以下、それらのポイントをかいつまんで紹介しよう。

知的好奇心で懐かしい物事に触れる

ポイントの一つめは「知的好奇心」。

同窓会で、同じ年なのに見た目が若々しい人と、そうではない人がいる。その差が生まれる要因の一つに知的好奇心が関わっているのではないかと、瀧教授は示唆する。つまり、知的好奇心が乏しい人は、脳の活動も感情の起伏も減り、年齢以上に老け込んでしまう。それは過去を振り返るときにも、同じことがいえるとする。例えば、昔住んでいた家の写真を見たとき。もし、ふだんから知的好奇心を感じないでいると、別段これといった印象を持てないかもしれない。

しかし、そこから一歩進むことを、瀧教授はすすめる。つまり、「細部までよく観察したり思い出すと、その一つひとつが手がかりやきっかけとなるキューになって、懐かしさをたっぷりと感じることができるのです」と。

「キュー」とは、過去を思い出すきっかけになる物事を意味する心理学用語。かつて住んでいた家だけでなく、自身がかつて愛着を持っていたものならなんでもキューになりうる。

もう一例として挙げているのが望遠鏡。天体観測にあこがれていたなら、「大人になった今、思い切って望遠鏡を買ってみるのはいかがでしょうか」と、瀧教授はすすめている。代わりにプラネタリウムに行くのでもいいそうで、いずれにせよ昔好きだったことを思い起こす習慣が、「回想脳」をつくるのに役立つという。

ウォーキングの伴う回想も効果的

もう一つのポイントが「運動」だ。

回想にプラスして身体を動かすことで、相乗的な効果がねらえるという。
運動といっても、ジムで鍛錬するようなハードなものでなくともOK。ウォーキングでいいそうだ。やり方としては、地元住まいなら、思い出の詰まった母校を歩いて訪れてみる。学校によっては、卒業生の集える「カムバックデー」を設けているところもあり、これなら構内に入れる。あるいは、親戚の子の運動会や外部に開かれた学園祭の機会を生かすのも手だし、そもそも校舎周辺を散策するのだけでもかまわないそう。

久しぶりに学校に行くと、自分がいた教室はもちろん、保健室、理科室、音楽室、体育館、さらには顔を洗った水道や休み時間に遊んだ遊具などを見たとたん、卒業以来ずっと忘れていた思い出があふれるようによみがえってくると思います。(本書096pより)

今は地元から遠くに住んでいるなら、観光施設として公開している廃校舎や、ちょっと話題の給食カフェへ行くのでもいい。そして、学校にこだわらず、両親や祖父母の生まれ育った地で歩きまわるのもおもしろいとも。

回想につながる会話を積極的に

最後のポイントが人との「コミュニケーション」。具体的には、他者との会話を指す。

会話は脳の多くの領域を使うが、会話も減れば脳も衰えてしまう。特に定年後は、人づきあいも疎遠になりやすいが、「他人としゃべらないこと自体が、認知症のリスクになります」と、瀧教授は述べている。

そこで、会話と回想が組み合わさった機会を積極的につくるようアドバイスがされている。なかでも同窓会は、「人がつながりながら昔を懐かしみ、脳を元気にする」という理由で最適。瀧教授も、少し気後れしつつ同窓会に参加したそうで、「記憶を共有している仲間はいいものです」と、認識を新たにしている。

同窓会に限らず、同じ世代の集まりには日常的に参加したい。例えば、喫茶店のマスターや常連たちと雑談の輪を広げ、共通の話題を含む昔話ができるようになれば、回想脳も鍛えられる。

そして、忘れてはならないのが親。健在であれば、親が語る昔の出来事を徹底的に聞くのも、効果的な回想脳ワークになるそうだ。以前から同じ話ばかりでうんざりというのであれば、場所を変えてみるのも一つの方法。小旅行やレストランに連れて行った先だと、まったく違った話を聞けるかもしれない。

*  *  *

瀧教授は、若い頃から乗っていた車を手放したあとで、懐かしさのあまり同型車種の中古車を購入するほどの、いわば回想の達人。コロナ禍でステイホームが続いて気が滅入った時期は、懐かしい音楽を聴き、昔の写真を見ることで回想脳を鍛え、幸福感を引き出していたという。自分は幸せと感じている人は、長寿の傾向があるというデータもある。あなたも、回想を生活の中に取り入れ、脳と心の健康を増進させてみてはいかがだろう。

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『回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣』
瀧靖之著
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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)で配信している。

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