まれなケースですが、エクササイズにより狭窄が治ってしまうことがあります。背骨が正常に戻り狭窄自体がなくなりますが、それでも時には痛くなることもありますし、また良くなることもあります。


【本文をお読み頂く前に】
今回ご紹介するケースは極めてまれなケースと思われますが、脊柱管狭窄症や坐骨神経痛について様々な示唆に富んだケースと考え、記事にさせていただきました。
誰にでも当てはまることではありませんので、その点ご承知おきいただいた上でお読みください。


織田さん(60代男性)は、1年ほど前に脚の痛みやしびれのため、大好きなゴルフをすることができなくなってしまいました。

整形外科を受診すると、検査の結果『脊柱管狭窄症による坐骨神経痛』との診断。

検査画像をみると、自分で見ても背骨がところどころずれていて、神経を圧迫しているように見えたそうです。

手術を勧められましたが、それは避けたいと思って色々調べられた結果、筆者の腰痛トレーニング研究所を知り、訪ねてこられました。

3か月ほどの治療やエクササイズ指導などで、順調に痛みやしびれは改善し、またゴルフを再開することもできました。

しばらく治療はお休みされていたのですが、最後の治療から3か月ほどたって、また痛みやしびれが出てきたとのことで治療を再開することに。

仕事が忙しく、またゴルフの練習やプレーも多くなったために疲労がたまったことで症状が出てしまったようでしたが、ご本人は『また脊柱管狭窄症が再発したのでは…』と非常に心配されていました。

1か月ほど治療を続けるも、今回は一進一退で少し良くなってもまた悪くなってしまう、ということを繰り返していました。

いよいよ心配になり、また1年前と同じ整形外科を受診して検査を受けたそうです。

すると医師に、『背骨の状態が良くなっている。これでは狭窄症とは言えないね』と言われました。本人もびっくりしたそうですが、医師も驚いていたそうです。

実際に1年前に撮った画像と今回の画像を重ねて見てみると、たしかに背骨の並びが良くなって正常な背骨に見えたそうです。

しかし痛みはありますので、医師に『痛みの原因はなんなのでしょうか?』と訪ねたところ、『…わからないね~』と言われたそうです。

でも織田さんは、今の痛みの原因はわからないけど脊柱管狭窄症が原因でないということがはっきりして、とても安心しました。

するとその翌日以降、痛みがどんどん良くなってきたのです。

筆者のところへ再び治療に来られたのはその検査の3日後でしたが、確かに痛みはかなり良くなっていて、体の動作にも大きな問題はありませんでした。

なぜ背骨が正常になったのか?

筆者の腰痛トレーニング研究所での脊柱管狭窄症治療の場合、背骨の変形や狭窄自体を治すような治療やエクササイズは原則的におこないません。

主な症状である痛みやしびれを改善するための施術治療やエクササイズをおこないます。

その対象となるのは腰や背中、殿部から脚の筋肉ですが、それらは背骨や骨盤、股関節などを支える筋肉でもあります。

それらの筋肉の固くなってしまった部分をゆるめ、縮んでしまった部分を伸ばし、弱くなった部分を強くします。

そのため結果的に背骨を支える力が復活し、背骨が正常になったのではないかと考えています。

脊柱管狭窄症は、加齢などから背骨が変形したり、椎間板が膨らんだり、背骨周りの靱帯が厚くなって、神経の通る脊柱管を狭くしてしまい、神経が圧迫を受けて発症すると言われています。

背骨が変形したりするのは、結局背骨を支える筋力が低下するからなのではないでしょうか?

背骨が正常なのに痛くなったのはなぜ?

背骨を支える筋力を復活させれば、背骨自体が正常になるのは当然にも思えます。

背骨が正常に戻っていて狭窄がなければ痛みは出ないはずですが、しかし織田さんの場合、背骨は正常に戻っていたにも関わらず痛みがでていました。

ということは、少なくとも今回の痛みは背骨や神経の問題ではない可能性が高いということ。

しかも、検査結果を聞いたあとに、とくに治療もしていないのに痛みが良くなってしまいました。

これは何を意味しているのでしょうか?

今回織田さんの痛みが再発した引き金は、仕事やゴルフなどの疲労によるものだと考えられます。

誰でも疲労が溜まれば腰や脚に痛みが出ることはあるでしょう。私などはそう考えます。

しかし織田さんはそう捉えず、『また脊柱管狭窄症が再発したのでは…』と悲観的に捉えてしまいました。

これは織田さんに限らず、慢性痛の患者さんに多い思考パターンです。痛みに対してとても悲観的にネガティブになってしまうのです。

それも無理はないのですが、そうすると脳が痛みに過敏になり、過剰に反応するようになってしまうのです。

悲観的に考えれば考えるほど、心配すればするほど痛みが強くなり、治りにくくなってしまうのです。

逆に楽観的にポジティブに捉えられると、非常に回復が早まります。

織田さんの場合、脊柱管狭窄症ではないとはっきり証明されたため、ものすごく安心できました。

そうすると脳の鎮痛機能が回復しますので、痛みが速やかに治っていくのです。

慢性痛と脳の鎮痛機能については以前にも記事にしております。

ストレスからおこる腰痛~腰痛とストレスと脳の関係~【川口陽海の腰痛改善教室 第7回・前編】

痛みと背骨

今回の織田さんのように、背骨が正常に戻ったことがわかったケースは何例かありました。

他の患者さんからも、痛みが良くなったあとに、何らかの検査の際に背骨の状態がわかってその報告をうかがうことがありますが、狭窄やヘルニアなどの背骨の変形や異常はそのまま変わっていないということが多いようです。

つまり、適切な治療やエクササイズをおこなえば、狭窄やヘルニアなどはそのままでも痛みは良くなるということです。

また、痛みやしびれがまったくない方を検査してみても、狭窄やヘルニアなどが見つかります。

逆に、ひどい腰や脚の痛みで病院に行き検査をしても、背骨などに異常がみつからないケースも多数あります。

このように、背骨の状態と痛みなどの症状にはあまり関連がないことは実は古くから知られており、エビデンスも多数あります。

まとめ

今回ご紹介したポイントをまとめると、

■まれに手術をしなくても、治療やエクササイズで狭窄(背骨)が正常に戻ることがある
■狭窄など背骨の異常はそのままでも、多くの場合痛みなどの症状は改善する
■痛みに対して悲観的になると悪化したり治りにくくなったりする
■痛みに対して楽観的に考えることで回復しやすくなる

ということです。

なかなか治らない痛みやしびれでお悩みの方、手術以外の方法を模索している方などは、一考される価値はあるのではないでしょうか。

最後に織田さんがおこなったエクササイズですが、とくに変わったことはやっておらず、今まで本連載でご紹介したオーソドックなストレッチなどがほとんどです。

以下の記事を参考にぜひ取り組んでみてください。

オススメの腰痛・坐骨神経痛改善ストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第61回】

腰痛に効くツボはココ! 腰方形筋のトリガーポイント【川口陽海の腰痛改善教室 第57回】

ヘルニア・坐骨神経痛 腿の裏側の痛みを改善するストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第50回】

腰痛・坐骨神経痛を自宅で改善! 自宅で出来る“殿筋ほぐし”【川口陽海の腰痛改善教室 第38回】

腰痛・坐骨神経痛を自宅で改善!(その2)手軽に出来る3つの殿筋ストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第39回】

拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。

文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html

腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(健康プレミアムシリーズ)川口陽海(著/文) 永澤守(監修) 発行:アスコム
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