路地裏に佇むジビエの聖地!六本木「ラ・シャッス」【山本益博の新ひと皿の歳時記2】

茨城で仕留めたかるかものロースト

文・写真/山本益博

10年を超える歴史があるのに、長らくこの店の存在を忘れていた。

2016年秋、『ジビエ教本』という1冊のフランス料理本が出版された。その本を買い求め、ページを開いたところ、目が釘付けになってしまった。シェフ自らがマダムと愛犬と一緒に狩猟に出かけ、鴨、田鴫、猪をはじめとする野鳥獣を仕留め、調理する。いわゆる、自然の命をいただく料理の原点がここにあったのだ。

『ラ・シャッス』の依田誠志シェフは休日になると、茨城をはじめ、北は北海道、南は九州まで飛行機を使って足を延ばし、獲物を探し、仕留めては店に帰ってジビエ料理に仕上げる。『ジビエ教本』には、狩猟の免許に始まり、狩りの方法からジビエ(野鳥獣)の調理のレシピまで満載されている。一読して、すぐに店に予約を入れた。

そこで、4種のジビエのテリーヌ、雉や猪のコンソメ、そして蜜柑の味のする野鳥、海苔の香りの漂う有明海の鴨、それに稀少な田鴫(べキャシーヌ)などを、シーズンに何回にもわたって出かけ、楽しませていただいた。

キジバトと山菜

食べるたびに、「命を丸ごといただき、自然の生き物を成仏させる」ことを実感する。ジビエのシーズンが終わると、狩りに出かける代わりに、春の桜のシーズンはモリーユ茸を探しに出かけ、夏になれば鰻を釣ってくるという。秋は、もちろん豊富な茸狩り。シェフとマダムは1年中、自然の中に身を寄せるのだという。先日の春の採れたてのモリーユは香りも味わいも格別だった。

モリーユ

モリーユ親子

レストランは六本木の喧騒を離れた場所にあって、玄関は小さな表札しか出ていない「隠れ家」である。店内は調理場が見渡せるオープンキッチンだが、内装はヨーロッパの山小屋にでも迷い込んだ雰囲気が漂う。そして、キャンドルの炎が、料理を美しく映えさせる。

マダムがサービスとソムリエールを担当、ジビエに合うブルゴーニュの飲み頃になった銘酒を手ごろな価格で揃えて薦めてくれる。素敵なデザートもマダムの担当である。赤や黄のガイドには記載されていないので、知る人ぞ知る東京のフランス料理の名店、いや、欠かすことのできない“財産”である。

【今日のお店】
『ラ・シャッス』
■住所/東京都港区六本木3-5-7
■電話番号/03-3505-6144
■営業時間/18時~22時(ラストオーダー)
■定休日/日曜日、祭日、狩猟時期の臨時休業
http://la-chasse.org/default.htm

文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。

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