揚子江菜館の名物「五色涼拌麺」1,510円。ほかに涼麺は「坦々冷麺」1,030円、「三冷麺」1,290円と3種のラインナップ。

文・写真/秋山都

6月を迎え、学生諸君も夏の制服へと衣替えする季節となった。夏らしい日が続くと食べたくなるもの、それが「冷やし中華」である。

私たちが当たり前のように食べているこの「冷やし中華」だが、実は本場中国にはない、日本のオリジナル料理なのだ。ではその起源は、どこにあるのか?

「冷やし中華はうちの二代目が始めました」と教えてくれたのは、東京・神田神保町で中華料理店『揚子江菜館』の四代目、沈松偉さんだ。この店こそ、全国の「冷やし中華」発祥の店というわけだ。

時は昭和8年、二代目の主人が日本の暑い夏にうんざりして、近所の日本蕎麦屋「神田まつや」(神田淡路町)に通いつめていた。注文はいつも「もりそば」。サッと茹で上げた生蕎麦を冷水にとり、きりりと引き締めたら、つゆに素早くくぐらせて口へ。スルスルと食べ終わる「もりそば」は見た目にも涼しく、食べて汗をかくこともない、夏にうってつけのメニューだった。

「冷たい麺をウチでもやってみよう」。実はそれまでも汁なしのまぜ蕎麦をまかないで食べていたというが、商品となれば話は別。どうしたらお客の心をひきつける冷麺ができるのか。実に200回以上の試作を繰り返して、現在の揚子江菜館の冷やし中華を特徴づけている、少し甘めのツユのレシピが出来上がったという。

冷やし中華のハイライトといえば、美しい具の盛り付けにある。全体像は富士山をイメージしており、白い糸かんてんで「雪」を、黒いチャーシューで「春先に雪が溶けて顔をのぞかせた土」を、緑のきゅうりで「新緑」を、茶色のたけのこで「秋の落ち葉」を、そして錦糸卵で「空にたなびく雲」を表現。五色揃って、実に色あざやかな一皿となっている。

一般的な冷やし中華の具といえば、きゅうり、チャーシュー、タマゴ、さらにかまぼこくらいがお決まりだが、さすが元祖、充実の内容だ。

しかしお楽しみはまだこれから。錦糸卵をかきわけると、中にはうずらの卵と肉団子が。ほかにエビ、しいたけ、きぬさやも加わり、「五色涼拌麺」と言いながら、実際は十目の具が揃う豪華版となっている。

この冷やし中華は、名物「上海焼きそば」とともに、作家の故・池波正太郎さんに愛されたメニューでもある。

池波さんはこの冷やし中華を日本酒で一杯やりつつ食するのがお気に入だったとか。なるほど、平日の昼下がりに「揚子江菜館」に出かけてみると、池波作品を愛読しているであろうオトナたちが、ゆっくりと一杯やりつつ麺類や一品料理を楽しんでいるのが印象的だ。

例年よりも暑くなりそうな今年の夏、古書店散策がてら“元祖冷やし中華”で暑気払いというのはいかがだろう。

【今日の下町美味処】
『揚子江菜館』
■住所/東京都千代田区神田神保町1-11-3
■アクセス/東京メトロ半蔵門線、都営地下鉄新宿線・三田線「神保町」駅徒歩1分
■電話/03-3291-0218
■営業時間/11:30~22:00
■定休日/無休

文・写真/秋山都
編集者・ライター。元『東京カレンダー』編集長。おいしいものと酒をこよなく愛し、主に“東京の右半分”をフィールドにコンテンツを発信。谷中・根津・千駄木の地域メディアであるrojiroji(ロジロジ)主宰。

 

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