文/鈴木拓也
銀座に店を構え、日本最古のインド料理専門店として知られる「ナイルレストラン」。
3代目シェフのナイル善己(よしみ)さんが、このたび刊行したのが『完全版「ナイルレストラン」ナイル善己のやさしいインド料理』(世界文化社)だ。
カレーは国民食と呼ばれて久しいが、何種類ものスパイスを揃えて一から作るのは、どうしてもハードルの高さを感じる。本書は、そんな意識を払拭させ、カレーをはじめ本格的なインド料理が誰でも作れるようにした決定版のレシピ集となっている。
実はシンプルなインド料理
一見複雑に思えるインド料理だが、本書でナイルさんは、実は基本の作り方は1つだけだと説く。
それは、「味のもと」と「具」の組み合わせ。「味のもと」とは、香味野菜、スパイス、塩などを混ぜ合わせたものを指し、その役割は、肉、魚介、野菜といった具の美味しさを引き出すことにあるという。
そして調理方法も、「味のもと」に「具」を加えて火を入れるなど、シンプル。特にカレーは、ほぼこの方法でできあがるそうだ。
ただし、スパイスについては若干の知識が必要となる。食材店のスパイスコーナーに行くと、粒のままのスパイスと、挽いて粉になったスパイスがある。前者をホールスパイス、後者をパウダースパイスと呼ぶ。ホールスパイスは、インドの北と南で使うタイミングが異なるという。北インドでは、最初の段階でホールスパイスを炒めて香りを油に移し、それに食材を加えて調理する。対して南インドでは、最後の仕上げに使う。つまり、小さなフライパンでホールスパイスを油で炒め、その香り油を料理に加えてなじませる。この作業をテンパリングと呼ぶ。
スパイスに関する細かい話は、大体これぐらい。心のハードルも、だいぶ下がったのではないだろうか。以下、本書のレシピを2品紹介するので、作ってみよう。
チキンマサラ(チキンカレー)
北インドのカレーで「最初にマスターしたい定番の作り方」として、最初に挙げられているのがこちら。北インドらしい、コク付け素材が複数使われているのが特徴。
【材料(4人分)】
・鶏もも肉(皮をむき、一口大に切る):400g
・A→玉ねぎ(みじん切り):1個分、にんにく(みじん切り):1かけ分、しょうが(みじん切り):1かけ分
・トマト(ざく切り):1個分
・カシューナッツ(塩味つき可):50g
・牛乳:100ml
・B→サラダ油:大さじ1、バター:20g
・水:300ml
・塩:適量
・ホールスパイス→カルダモン:5粒、クローブ:5粒、シナモン(皮片):2片(シナモンスティック1本でも可)、ベイリーフ:1枚(ローリエで代用可)、カスリメティ(仕上げ用。あれば):小さじ2
・パウダースパイス→コリアンダー:小さじ2、パプリカ:小さじ2、ターメリック:小さじ1/2、ガラムマサラ:小さじ1/2、カイエンヌペッパー:小さじ1/4
【作り方】
1. カシューナッツは2~3分ゆで、牛乳とともにミキサーでペースト状にする。鍋にBを入れて軽く温め、バターが半分溶けたらカスリメティ以外のホールスパイスを加える。
2. カルダモンがふくらんだらAを加え、強めの中火で、玉ねぎがしっかり色づくまで炒める。
3. トマトを加えてつぶすようにして、水分を飛ばしながら炒める。
4. ペースト状になったら弱火にし、パウダースパイスと塩小さじ1弱を加え、焦げないように20~30秒炒め合わせる。
5. 1のカシューナッツペーストを加え、中火でなじませる。焦げやすいので、鍋肌も木べらでぬぐいながら混ぜる。
6. 少し粘り気が出て、うっすら色づくまで炒め合わせる。これが「味のもと」。
7. 鶏もも肉、水を加え、カスリメティを手で押さえるようにもんで加え、強火でひと煮立ちさせる。弱火にして蓋をし、約10分煮る。塩で味をととのえる。
ケララフィッシュ(ケララ風 魚のカレー)
こちらは、南インドを代表する魚介のカレー。海のない北インドは鶏肉やマトンを使った料理が多いが、ケララ州など南部に位置する地域は、海の幸を生かしたものが主体。
【材料(4人分)】
・ぶり(切り身を3等分に切る):350g
・A→玉ねぎ(薄切り):1個分、青唐辛子(斜め薄切り):3本分、にんにく(せん切り):1かけ分、しょうが(せん切り):1かけ分
・トマト(ざく切り):1個分
・ココナッツミルク:200ml
・タマリンド:15g
・ぬるま湯:300ml
・サラダ油:大さじ3
・塩:適量
・パウダースパイス→コリアンダー:大さじ1、パプリカ:大さじ1、ターメリック:小さじ1/2、カイエンヌペッパー:小さじ1/3、フェヌグリーク(あれば):小さじ1
以下はテンパリング
・サラダ油:大さじ1
・玉ねぎ(みじん切り):大さじ2
・ホールスパイス→赤唐辛子:2本、マスタードシード:小さじ1/2、カレーリーフ(生、あれば):10枚
・パウダースパイス→カイエンヌペッパー:小さじ1/4
【作り方】
1. タマリンドはぬるま湯に約10分ほど浸け、手でよくもみ出す。
2. 鍋にサラダ油を軽く温め、Aを加えて強めの中火で玉ねぎの縁が色づくまで炒める。
3. トマトを加えてつぶしながら炒める。トマトの形が少し残り、ほぼペースト状になったら、弱火にしてパウダースパイス、塩小さじ1を加える。
4. 焦げないように20~30秒炒め合わせる。
5. ココナッツミルクを加え、1を少しずつ手でこし入れ、最後にぎゅっと絞る。
6. 強火でひと煮立ちさせ、弱火にして蓋をし、ときどき混ぜながら約10分煮る。これが「味のもと」。強火にしてぶりを加え、ひと煮立ちさせて弱火にし、蓋をして約3分煮る。塩で味を調える。
7. 小さいフライパンにテンパリング用のサラダ油を軽く温め、マスタードシードを加えて蓋をし、はねがおさまったら残りの材料をすべて加える。
8. 玉ねぎが薄く色づいたら、6に加えて混ぜてなじませる。
本書には、こうしたカレーのほか、副食や米料理などインド料理の作り方が78品掲載されている。スパイス好きなら、ぜひ参考にしてほしい1冊だ。
本書内写真:高橋栄一、西山航
【今日のおいしい1冊】
『完全版「ナイルレストラン」ナイル善己のやさしいインド料理』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。