蒸留所は、日本三大砂丘に数えられる吹上浜の段丘の上に立つ。この浜辺を、嘉之助は「日本一夕日が美しく映える」と評したという。

大海原の絶景を見ながら稀少な銘酒を試す

近年、焼酎処、鹿児島県の焼酎蔵がウイスキー造りに参入する動きが活発だ。焼酎とウイスキーはともに蒸留酒。焼酎造りで磨いた技術が、質の高いウイスキー造りに生かされている。

日本で初めての樽熟成焼酎「メローコヅル」を世に送り出した小正醸造が母体の嘉之助(かのすけ)蒸溜所もそのひとつ。設立は平成29年(2017)。東シナ海沿いに立つ、コの字形のモダンな建物が目を引く。

嘉之助蒸溜所の母体である小正醸造の2代目・小正嘉之助が昭和32年(1957)に発売した、樽熟成の焼酎「メローコヅル」を展示。

蒸留所の見学は、主にウイスキーの造り手が案内してくれる。この日は、ブレンダーでもある神野僚太さん(35歳)が案内役を務めてくれた。まずは、蒸留所の成り立ちから説明してくれる。次に、板張りの製造エリアへ入ると、麦汁を造る糖化槽、床に埋め込まれた仕込みタンクが並び、製造担当者が作業する様子を間近に見学することができる。奥にはポットスチルが3基。

まず、糖化槽を見学。麦芽と仕込み水を混ぜたものが、澄んだ甘い麦汁へと変化する過程を見ることができる。
日本製のポットスチルが3基並び、写真はボディのある酒質に仕上がる真ん中のポットスチル。渡り廊下から間近に見られて圧巻だ。

「小規模の蒸留所で3基あるのは珍しいです。ネックやラインアームと呼ばれる上部の角度が、それぞれ異なる形をしています。焼酎造りで養った技術を生かしながら3基を使い分けることで、多彩な原酒を造ることができます」と神野さん。鹿児島の海辺らしい、香り豊かなウイスキーを目指している、と造り手の口から力強い言葉を直に聞けた。そして、蒸留所内にある樽貯蔵庫を見学。

「蒸留所内にあるのは200樽ほどですが、弊社の全所有数は約5000樽。貯蔵する場所が足りず、近所の閉校した小学校の体育館を改装し、樽貯蔵庫として活用しています」(神野さん)

海を見渡せるバーで試飲

東シナ海が望める2階のテイスティングルーム。オーダーメイドの椅子に深々と座り、ウイスキー2種と原酒を試飲できる。

約30分の見学終了後は、蒸留所内にあるテイスティングルーム「メロー・バー」へと誘われる。大きな窓からは水平線が望め、重厚な一枚板のバーカウンターが伸びる洗練された空間。ここで現在試飲できるのは、ウイスキー2種と、蒸留所ならではの醍醐味である原酒だ。美しい景色を眺めながら、製品と原酒を飲み比べることができる。甘やかな香りと複雑で長い余韻。他では得難い体験だ。

この日、テイスティングルームで試飲したのは「嘉之助HIROKI POT STILL」(右、1万2100円)、「シングルモルト嘉之助」(左、9900円)。いずれも700ml、1階のショップで購入可。

嘉之助蒸溜所

鹿児島県日置市日吉町神之川845-3
電話:099・201・7700
営業時間:10時~16時30分
定休日:月曜(祝日の場合は営業)、臨時休業あり
交通:JR伊集院駅よりタクシーで約15分
※見学は火曜・木曜13時30分~。土曜・日曜・祝日は10時30分~、13時30分~。試飲込みで1000円。1週間前までにホームページより要予約。https://kanosuke.com

取材・文/安井洋子 撮影/森本真哉
※この記事は『サライ』本誌2024年3月号より転載しました。

『サライ』2024年3月号の特集は『「ジャパニーズ・ウイスキー」新時代』。

 

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