紫式部を育んだ平安京に始まり、『源氏物語』所縁の宇治、物語の構想を得たと伝えられる石山寺、藤原宣孝と恋文を交わした越前の地に、紫式部の残り香を求めて旅をする。
平等院
全54帖からなる『源氏物語』のうち、最後の十帖は主人公光源氏の子薫と孫匂宮を巡る物語だ。その主だった舞台として、都から離れた宇治の地が選ばれている。
紫式部が実際に宇治を訪れたかどうかは定かではないが、宇治を流れる宇治川の風情は、物語を完成させる上で、必須の要素であったことが窺える。
宇治橋の袂には、紫式部像の他、『源氏物語』宇治十帖を象徴する情景でもある、浮舟と匂宮が小舟で宇治川に漕ぎ出す姿を題材とした像が配置されてもいる。
極楽往生を夢見て
宇治といえば、大河ドラマ『光る君へ』のもうひとりの主人公・藤原道長が別荘として建て、その子頼通が寺院に改めた平等院がつとに知られる。仏師定朝作の阿弥陀如来坐像を安置する阿弥陀堂( 鳳凰堂)を中心とする浄土庭園は、平安貴族が暮らした寝殿造りを彷彿とさせる造りで(寝殿造りとは異なる構造)、道長が築いた藤原摂関時代の姿を残す貴重な遺構だ。
道長の別邸があった宇治を物語の舞台に選んだ紫式部。歴史の浪漫(ロマン)を感じずにはいられない。
【立ち寄り処】ドラマと歴史、宇治の魅力を発信
光る君へ 宇治 大河ドラマ展 ~都のたつみ 道長が築いたまち~(お茶と宇治のまち交流館 茶づな内)
『源氏物語』の終盤を飾る宇治十帖の舞台に展開される宇治市主催の「大河ドラマ展」。大河ドラマ『光る君へ』の世界観を楽しむための、ドラマに関係した展示と併せ、宇治市の歴史や文化についても学ぶことができるような展示を予定。
取材・文/平松温子 撮影/奥田高文、小林禎弘
※この記事は『サライ』本誌2024年2月号より転載しました。