日本人にとっての“ご馳走魚”の筆頭「まぐろ」。さまざまな食べ方が考案され、江戸前鮨では最高のネタとして親しまれているが、肝心のまぐろの「種類」と「部位」について、どれほどご存じだろうか?
日本で流通しているまぐろは5種類
世界には8種類のまぐろが生息しているが、日本近海では、タイヘイヨウクロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ、コシナガの5種類が漁獲される。小型のコシナガは身がぱさついて味わいが劣るが、他の4種はほぼすべてが刺身で食される。
加えて日本にはもう一種、南半球のみで獲れるミナミマグロも流通している。これは、クロマグロに味の似たまぐろだ。ちなみにカジキ類は、まぐろと種が異なるので注意したい。
大きなものでは2mを超えるまぐろの解体には、高度な技術が必要とされる。そのため昔も今も、取り扱うのは専門の仲卸業者だ。
まぐろの味は、種類や獲れた時期によっても異なるが、同じ海域で獲れた同じ種類、同じ大きさのものであっても、1尾ごとに身の質や脂の乗り具合が大きく違う。そこで仲卸業者は、競りが始まる前に手鉤(てかぎ)や懐中電灯で腹部や尾びれつけ根の断面をよく観察し、身質を確認してから競りに臨むのである。
まぐろの部位による違い
生のまぐろは、手鋸(てのこ)と長大なまぐろ包丁を使って、まず3枚におろされ、次いで脊椎骨周辺の血合部を境に、背側の身と腹側の身に4分割される。
競り落とされたまぐろは、仲卸業者の店先でブロック(塊)単位で切り分けられ、鮮魚商や料理店に販売されることになる。料理人は値段とその日の献立を勘案しつつ、必要な部位を指定して購入するのだ。
ブロックは、背側の赤身、腹側のトロとともに、頭部寄りからカミ、ナカ、シモの順で呼ばれる。背、腹とも一般的には頭部に近いカミのほうが値は張るが、形が細いシモは、尾びれを動かすため味がよいと好む料理店もある。
まぐろの旨みの主成分は、熟成(たんぱく質の分解)によって生じるイノシン酸。その旨味に脂の甘みとコクが加わることで、味が相乗化した部位がトロである。
トロはここ数十年の人気部位で値段も高額だが、お伝えしたように、昔はまったく人気のない部位であった。
また、資源的にも貴重になった現在では、まぐろは頭部(脳天)、胸びれのつけ根(カマ)、頰(ほお)といった小さな部位、骨まわりの薄い身までこそぎ取り、無駄なく利用される。日本ほど、まぐろを大切に扱っている国はないのかもしれない。
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『サライ』12月号の「まぐろに幸あり」特集記事には、まぐろの名店のみならずレシピなども豊富に掲載されている。まぐろ好きをを名乗るのなら、ぜひ手にとっていただきたい。
※この記事は『サライ』2016年12月号掲載のまぐろ特集「種類と部位」記事(取材・文/鹿熊勤)の内容を元に、Web用に再構成したものです。(Web版構成/印南敦史)
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