放映中の「真田丸」に続き、2017年1月8日から放送開始予定のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」が話題だ。このドラマ最大の特徴は、主人公の井伊直虎(いい・なおとら)が、戦国時代に遠江(現在の静岡県浜松市)に実在した「女性」だということ。
織田信長とほぼ同じ時代を生きた直虎は、一族の滅亡の危機を救うべく、女ながらに井伊家の当主となり、のちに「徳川四天王」として活躍することになる井伊直政を養育した。
直虎が生きたのは、桶狭間の戦い、長篠の戦いなど、歴史に残る合戦が繰り広げられた激動の時代。そんなドラマの舞台をより深く知るために、物語にも登場する城を中心として、井伊、今川、武田、徳川の各氏にゆかりの城々を詳しく紹介した書籍が、『井伊直虎の城 今川・武田・徳川との城取り合戦』(監修/小和田哲男、小学館)である。
今回は同書を参考に、井伊直政の子、井伊直継・直孝によって建設され、今なお名城として知られる「彦根城」についての5つのトリビアをご紹介しよう。
■1:姫路城に次ぐ全国2番目の「国宝の城」!
彦根城天守は、全国でたった5件しかない国宝天守のうちのひとつ。1952年(昭和27)には、前年の姫路城に続いて、城郭建造物として2件目の国宝指定を受けている。
琵琶湖の東岸に接した彦根山(標高136m)山頂に立つ天守は3層3階で、意匠を凝らした美しさが魅力。櫓に望楼(ぼうろう)をあげた古い形式の天守であり、戦国から江戸時代への過渡期における貴重な遺構だ。
なお姫路城天守が高さ約31.5mと、明治時代以前からある天守のなかでもっとも大きいのに対し、彦根城天守はその半分の約15.5mと小ぶりである。
■2:天守はなんと琵琶湖を渡ってきた!
彦根城天守は、琵琶湖の対岸にあった大津城(滋賀県大津市)の天守を移し、形を直して建てたといわれてきた。事実、1957年(昭和32)から数年をかけて行われた解体修理により、この言い伝えがほぼ事実であったことが立証されている。
大津城天守の1階は台形、1階と2階はほぼ同じ形をしていたと考えられる。2階の上に大きな屋根がかけられ、その小屋根裏に小さな3階がつくられていた。4階と5階は大屋根の上に乗せられていたそうだ。さらに5階にはベランダの手すりのような高欄(こうらん)が施されていた。
そんな大津城天守が一回りコンパクトになったのは、平坦な広い土地に建てられたものを山頂の平地が少ない場所に移すにあたり、縮小する必要があったからだろう、とされている。
■3:美しさを際立たせる装飾の数々!
彦根城の魅力は、華美な装飾と、戦乱の時代につくられた内部の実戦的な部分との微妙なバランスにある。
彦根城を美しく見せている装飾のひとつが、日本建築で屋根の装飾として使われる破風(はふ)と呼ばれるもので、彦根城では千鳥(ちどり)破風、入母屋(いりもや)破風、軒唐(のきから)破風などが取り入れられている。
さらに彦根城を美しく見せているのは、華頭窓(かとうまど)と呼ばれる釣り鐘のような形の窓。寺院ではよく見られるが、天守では少ないものだ。
また最上階には装飾性の高い高欄という手すり付きの廻縁(まわりえん)を四隅につけ、瀟洒な印象を高めている。
■4:実戦でも鉄壁の守りを誇る!
彦根城がつくられたころは、関ヶ原の戦いが終わったとはいえ、豊臣秀吉の遺児・豊臣秀頼が健在。戦乱の時代はまだ続いていた。外側の華麗な印象とは対照的に、天守内部が実戦に備えた作りになっているのはそのせいだ。
入り口からは天守に直接入れず、付属する付櫓(つけやぐら)から入るのだが、付櫓と天守の間には鉄の板を張った頑丈な扉が。壁には鉄砲で攻撃できるよう狭間(さま)と呼ばれる穴が開けられ、「破風の間」という攻撃用の小さな部屋もあった。
天守の階段が60度と急勾配になっているのも、敵が武器を手にして階段を上がれないようにするための工夫。内部には装飾もなく、外観とは裏腹に無骨な印象だ。
■5:解体の危機を救ったのは明治天皇!
時代は下って明治に入ると、日本各地の城は古い時代の象徴として壊されていくことになる。彦根城もその例に漏れず、1878年(明治11)9月に天守が取り壊されることが決まり、足場までかけられた。
ちょうどその時、明治天皇が北陸から京都に向かう途中で彦根近くの高宮に立ち寄った。その際、同行していた大隈重信は、彦根城が取り壊されると聞き、天皇に彦根城を保存するように伝えた。
井伊家の一族が住職を務める寺に天皇が立ち寄り、そこで天守を保護してほしいと懇願したという説もあるが、いずれにしても明治天皇が解体の危機にあった彦根城を救ったのである。
以上、『井伊直虎の城 今川・武田・徳川との城取り合戦』から、来年の大河ドラマで注目される井伊家の城・彦根城をめぐる5つのトリビアをご紹介した。これらを知った上で、ぜひ現地を訪ねてみてほしい。城好きならずとも、惚れ惚れするであろう名城だ。
同書の監修は、静岡大学名誉教授であり、ドラマ「おんな城主 直虎」の時代考証を担当する小和田哲男氏。わかりやすく解説されているので、城や歴史に興味を持ち始めたビギナーにも最適な内容。ドラマのスタートに先駆けて、ぜひ読んでおきたい。
文/印南敦史
【参考図書】
「おんな城主 直虎」にまつわる城がわかる一冊
『井伊直虎の城 今川・武田・徳川との城取り合戦』(小学館)
監修/小和田哲男
NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」のドラマの舞台となる城を中心に、井伊、今川、武田、徳川にゆかりのある城や砦が写真入りで詳しく紹介されていて、井伊家の物語と、戦国時代の城を巡る戦いについて、よくわかります。
井伊、今川、武田、徳川に「ゆかりの城36」の歴史と遺構を詳説。井伊直虎、直政を中心とした「家族の物語」を城と絡めて紹介。戦国時代の城の特徴、「歴史に名高い合戦」を図版入りで解説。城や歴史に興味をもち始めた方に、おすすめです。