取材・文/池田充枝
日本が弥生時代といわれた、遥か1800年も昔の中国に起こった「三国志」は、いまだに関心がもたれています。
天下に比類なき大帝国であった漢王朝が、王朝内部の政争によって弱体化した2世紀末、その混迷に端を発し、各地の有力武将たちが歴史の表舞台へと踊り出ました。
華北では曹操(そうそう)が、長江上流域では劉備(りゅうび)が、長江下流域では孫堅(そんけん)・孫権(そんけん)父子が台頭し、ここに魏(ぎ)・蜀(しょく)・呉(ご)の三国時代が幕をあけました。
この三国の動静は、正史「三国志」や小説「三国志演義」に著され、長く人々の楽しむところとなりました。そして21世紀に入り、曹操高陵(そうそうこうりょう)の発掘など重要な考古学的成果が相次いだことで、三国志研究は新たな局面を迎えています。
選りすぐりの文物と最新の研究成果を交えてその実像に迫る「リアル三国志」展が開かれています。(9月16日(月・祝)まで)
本展では、三国志研究史上最大の発見で、海外初出品となる曹操高陵出土品や、呉の皇族クラスの墓と目される上坊(じょうぼう)1号墓など最新の発掘成果を多数紹介します。
本展の見どころを、東京国立博物館の学芸研究部調査研究課東洋室主任研究員、市元塁さんにうかがいました。
「特別展の会場でまず目に入るのは、関帝廟の堂内を飾っていた清時代の壁画です。張飛が私利私欲をむさぼる小役人を鞭打つ場面など、『三国志演義』の名場面がいきいきと描かれています。
次に視界に飛び込むのは圧倒的な存在感を放つ関羽像。坐像でありながら像高は170㎝を超え、引き締まった体躯と人間味のある表情は、伝世屈指の「美関羽」です。
本展は、このように『三国志演義』や関羽信仰にゆかりの、いわば伝説化した三国志から始まります。しかしそれはほんの序章にすぎません。本展の見どころはその先。後漢時代から三国時代の考古遺物が紡ぎだす、「リアル三国志」の世界です。
会場を奥へ進むと、後漢時代の石彫の獅子が私たちを出迎えます。実物のライオンを見なければ作りえない迫真の造形。後漢王朝の威厳を体現する作品です。獅子の先で、会場は左に折れます。その先に見えてくるのは、空中渡り廊下をもつ高層建築。墓に納めるために作った穀物倉庫の模型です。河南省焦作市では、このような立派な穀物倉庫が集中的に出土しています。後漢時代、当地が豊かな穀倉地帯であったことをよく示しています。後漢のラストエンペラーこと献帝は、魏に帝位を譲ったのちは山陽公としてこの地で余生を過ごしました。魏が山陽公を厚遇したであろうことが推察されます。
次の展示室では、放たれた無数の矢の演出のほか、後漢から三国時代の兵器が一堂に会しています。三国志という百年戦争の時代を体感できる空間です。ここまででもうお腹いっぱいですが、本展の最大の山場は展示の終盤、曹操高陵の実寸再現と副葬品の数々です。
稀代の英雄として人気を博す曹操は、臨終に際して自身の葬儀は簡素にするよう遺言しました。その曹操の墓が、2008年から09年年の発掘でみつかったのです。果たして曹操の遺言の真偽やいかに。ぜひ曹操の遺言のリアルをご自身の目でお確かめください」
三国志の活劇譚を考古資料で辿る、新しい三国志! ぜひ会場で体感してください。
【開催要項】
日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
会期:2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://sangokushi2019.exhibit.jp/
開館時間:9時30分から17時まで、金・土曜日は21時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日、7月16日(火)(ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・休)は開館)
巡回:九州国立博物館(2019年10月1日~2020年1月5日)
取材・文/池田充枝