取材・文/池田充枝
誰もが知っている「アルプスの少女ハイジ」の生みの親であるアニメーション映画監督、高畑勲。1959年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社し、劇場用長編の「太陽の王子 ホルスの大冒険」を初演出したのちは、テレビシリーズの「アルプスの少女ハイジ」、「母をたずねて三千里」、「赤毛のアン」の全話演出をはじめ、1984年の「風の谷のナウシカ」ではプロデューサーを務め、1985年のスタジオジブリ設立に参画しました。
また、自らの脚本・監督作品「火垂るの墓」、「おもひでぽろぽろ」、「平成狸合戦ぽんぽこ」など数々の作品を世に送り出しました。
冒険ファンタジーとは異なる、日常生活の丹念な描写を通して豊かな人間ドラマを創り出すというアニメーションの新たな表現方法を開拓するなど、アニメーションの表現形式の可能性を追求した革新者として高く評価されています。
昨年惜しまれつつ逝った高畑勲監督の業績を辿る展覧会が開かれています。(10月6日まで)
本展の見どころを、東京国立近代美術館の主任研究員、鈴木勝雄さんにうかがいました。
「アニメーション映画監督、高畑勲(1935-2018)の半世紀におよぶ創作活動を総攬する初めての個展です。
絵を描かない高畑監督の演出術に焦点を当てる本展では、高畑と共同で作品世界を構築した優れたアニメーターの仕事に注目します。森康二、大塚康生、小田部羊一、奥山玲子、宮崎駿、近藤喜文らが、高畑との対話を通して創り上げたキャラクターの魅力とその動きは圧倒的な存在感を発しています。
さらにアニメーションの「背景」にこだわりぬいた高畑の期待に応えた井岡雅宏、椋尾篁、山本二三、男鹿和雄ら美術監督の仕事からは、「風景」をもう一人の主人公として位置づけた高畑演出意図が浮かび上がります。
モダン・アートの歴史とは異なる地点から「絵の力」を引き出し、豊かな作品世界を創り上げた高畑演出の真髄は、これらの原画や背景画の強度を直接体感できる本展を通して明らかになることでしょう。
もうひとつ高畑演出の秘密に迫る手がかりとして、本展が主軸に据えたのが、高畑監督の遺品の中から発見された制作ノートなどの未公開資料です。これらの膨大な文字資料からは、徹底的な調査の上に舞台設定を緻密に構築していく過程や集団制作の工夫など、高畑独自の方法を知ることができます。
宮崎駿と制作した「パンダコパンダ」のレイアウトなど今回新たに見つかった作品も含まれる総数1000点を超える作品・資料によって、高畑監督がアニメーションの歴史に遺したものを受けとめ、考える機会を提供します。」
【開催要項】
高畑勲展―日本のアニメーションに遺したもの
会期:2019年7月2日(火)~10月6日(日)
会場:東京国立近代美術館 1階 企画展ギャラリー
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://takahata-ten.jp
開館時間10時から17時まで、金・土曜日は21時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)
取材・文/池田充枝