文・石川真禧照(自動車生活探険家)

自動車用のエンジン型式を表す言葉として気筒数がある。エンジンのシリンダーの数だ。単気筒からはじまり、2、3、4、5、6気筒が一般的だが、その上となると8、10、12気筒がある。1930年代には16気筒というエンジンを搭載した車もあった。米国、キャデラックの高級車だった。気筒数が多ければ、製作工程も多くなり、高価になる。馬力も多くなるので、8気筒以上は高級車に搭載されることが多い。




最近、少なくなったエンジンに12気筒がある。以前はメルセデスベンツ、BMW、ジャガーも搭載していたが、生産効率や環境問題もあり生産を中止している。今ではロールスロイス、アストンマーティン、ランボルギーニ、フェラーリがわずかに12気筒エンジンを製造し、搭載しているぐらいだ。なかでもフェラーリは12気筒エンジンへのこだわりが強いブランドとして知られている。
フェラーリ12チリンドリはそのこだわりの最新モデルだ。





フェラーリと12気筒エンジンの結びつきは1947年にさかのぼる。フェラーリの創業者エンツォ・フェラーリが初めて自らの名を冠したレーシングカー「125S」のエンジンが排気量1.5Lの12気筒エンジンだった。車名の「125」は1気筒当たりの排気量で、以来、この命名の方程式は2010年代まで用いられている。
レーシングカーからスタートしたフェラーリの12気筒エンジンは、やがて市販車にも搭載されるようになる。1950年代に入り、レースでの好成績を知った富豪や貴族が、同じエンジンを搭載した車に公道でも乗りたいという声があがり、1954年に12気筒エンジンを搭載したスポーツカーを市販したのだ。車体の前に12気筒エンジンを搭載した車は、著名な自動車デザイナーたちが美しい車体をデザインし、高性能、高級なスポーツカーとして、少数台数が市販された。いまでも50~60年代のフェラーリスポーツカーは高額で取り引きされている。

フロント12気筒エンジンのフェラーリは1994年まで生産されたが、突然、エンジンを車体中央に置いたミッドシップに代わった。2012年に再びフロントエンジンが復活している。このあたりからミッドシップではなく、フロントエンジンの12気筒へのこだわりが強くなっていく。それは車名に表れた。2012年「F12」はフロントエンジンの12気筒、2017年「812」は800馬力の12気筒車。そして2024年には「12チリンドリ」。チリンドリはイタリア語で「気筒」を表す。その名も「フェラーリ12気筒」になったのだ。
最新の12気筒エンジンは排気量6496cc、830馬力。フロントエンジンの後輪駆動で、最高速340km/h。こう書くと、手に届きそうにないスーパーカーと思うかもしれないが、実際にシートに座り動かしてみると、全幅2m以上の車幅に気をつければ、意外に走り易い車ではある。




ハンドルに内蔵されたスターターボタンを押すと、12気筒、6.5Lエンジンが爆音と共に始動する。これは人前ではちょっと気恥ずかしい。変速機は8速ATだが、シフトは一見マニュアルミッションのようなパターンを採用し、ギアシフトの感覚をイメージさせる。
A(ATモード)を選択し、走り出すと12気筒エンジンのスムーズさが体験できる。その粘りは驚異的ともいえる。時速70キロ、エンジン回転1000回転でもDレンジでユルユルと街中を流せるのだ。エンジンがギクシャクすることもない。もちろん状況さえ許せば、そこからアクセルをグイッと踏みつけ全開加速すれば、12気筒エンジンは9000回転まで一気に上昇し、時速100キロまでは4秒足らずで達する。そのとき12気筒エンジンは狂暴とも言える音と加速で周囲を圧倒する。

エンジンルームを見れば、12気筒エンジンは、奥のほうに赤いヘッドカバーで低く搭載されている。かつてエンツォ・フェラーリは「12気筒エンジン以外のストラダーレ(市販車)はフェラーリと呼ばない」と公言したというが、いまでもフェラーリを買うということは、12気筒エンジンを買うことだ、と年季の入ったフェラリスタは思っているに違いない。
フェラーリ/12チリンドリ
| 全長×全幅×全高 | 4733×2176×1292mm |
| ホイールベース | 2700mm |
| 車両重量 | 1560kg |
| エンジン | 6496cc |
| 最高出力 | 830ps/ 9250rpm |
| 最大トルク | 678Nm/7250rpm |
| 駆動形式 | 後輪駆動 |
| 燃料消費率 | 6.45km/L(WLTC) |
| 使用燃料/容量 | 無鉛ハイオクガソリン/ 92L |
| ミッション形式 | 8速AT |
| サスペンション形式 | 前:ダブルウイッシュボーン 後:ダブルウイッシュボーン |
| ブレーキ形式 | 前:ベンチレーテッドディスク後:ベンチレーテッドディスク |
| 乗員定員 | 2名 |
| 車両価格(税込) | 5674万円 |
| 問い合わせ先 | https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/ferrari-12cilindri |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博





