取材・文/池田充枝
金沢に生まれた北野恒富(きたの・つねとみ、1880-1947)が画家を志して大阪に来たのは17歳の時でした。時はちょうど明治末期。大阪では、東京や京都と異なる画壇が形成され、若い画家たちが画壇の改革をめざしていました。
そうした中で恒富はリーダー格として活動し、明治末期には日本画家としての地位を確立します。
その後、洋風な写実やアールヌーヴォー調などを取り入れて、妖艶で退廃美漂う作品を手がけた恒富ですが、大阪美術展覧会(大展)を設立した時期からは、それまでの洋画風の美人画から一転して、浮世絵などを積極的に学習し、鮮やかな色彩にモダニズムとしての現代風俗を表現。昭和10年代に入ると、船場の旧家の風情を描き始め、モダンな感覚を秘めた清澄にして艶やかな「はんなり」に到達します。新聞小説の挿絵やポスター制作も手がけ、新しい時代を感じさせる美人画ポスターは絶大な人気を博しました。
今は忘れられてしまった情緒豊かな「大阪」を表現した北野恒富の、没後70年を記念する大回顧展「なにわの美人図鑑」展が、大坂のあべのハルカス美術館で開かれています(~2017年7月17日まで)。
※その後、島根県立石見美術館(8月5日~9月18日)、千葉市美術館(11月3日~12月17日)に巡回されます。
本展は、北野恒富没後70年を記念して、その生涯を作品で辿るとともに、画塾「白耀社」で恒富が関わった島成園や中村貞以らの名作も合わせて展示し、近代大阪画壇の巨匠の豊かな芸術観を概観します。
本展の見どころを、あべのハルカス美術館・主任研究員の北川博子さんにうかがいました。
「本展は、北野恒富の画業をほぼ網羅した決定版ともいえる展覧会です。院展、帝展、大展などの展覧会に出品した名作が揃って並び、壮観です。
恒富は、大正中期頃から大阪の南地を中心に主題をおいて、芝居や歌舞伎に頻繁に足を向け、宗右衛門町の雰囲気に浸って「大阪の女性たち」を描き続けました。
昭和10年代の大阪は、都市文化が成熟した「大大阪(だいおおさか)」と称する繁栄の極みにありました。そんな時代のなかで、恒富が描く女性たちは「はんなり」と呼ばれる画境をみせて一世を風靡します。特筆すべきなのは、近代都市大阪のモダンな文化的生活と伝統を引き継いだ生活文化の新旧をみごとに融合させている点です。
例えば谷崎潤一郎『細雪』の登場人物を思わせる姉妹を描いた《いとさんこいさん》では、寝そべっている妹(こいさん)に、良家の子女であっても枠に収まらない自由さを感じ取れます。
恒富作品から、良き時代の大阪、懐かしい大阪を思い起こしていただければ幸いです」
「はんなり」にしてモダン、恒富が描く大坂の女性に会いに、ぜひ足をお運びください。
【展覧会情報】
『没後70年 北野恒富展 なにわの美人図鑑』
■会期:2017年6月6日(火)~7月17日(月・祝)
■会場:あべのハルカス美術館
http://www.aham.jp/
■住所:大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階
■電話番号:06・4399・9050
■開館時間:火~金曜日10時から20時、月・土・日・祝は10時から18時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日:6月12日(月)、26日(月)
※終了後は島根県立石見美術館(8月5日~9月18日)、千葉市美術館(11月3日~12月17日)に巡回されます。
取材・文/池田充枝