取材・文/池田充枝
春といえば、花見や雛祭りなどを連想する人は少なくないでしょう。これらは今では広く一般的な行事となりましたが、もともと公家社会の習慣でした。
江戸時代となると次第に武家社会にこの文化が浸透しました。その背景にあったのは徳川将軍家と京都の宮家や摂関家との婚礼です。江戸と京都で婚姻関係が結ばれることにより、宮廷の文化が江戸城の大奥にもたらされました。
そして、春を寿ぐ行事が徐々に江戸市中にまで広まったのです。
将軍家の春の行事を紹介する展覧会が開かれています。(3月3日まで)
本展は、恒例の公益財団法人德川記念財団との共催企画展で、今回は春に焦点をあわせ、将軍家ではどのように春を祝し、過ごしたのかを展観します。
德川宗家に伝来する東照宮御影をはじめ、将軍正室であった天璋院篤姫と皇女和宮が所持した雛道具、江戸中後期の精密な銀細工や豆人形などを紹介します。
本展の見どころを東京都江戸東京博物館の学芸員、齋藤慎一さんにうかがいました。
「本展では、徳川将軍家の春の行事をおよそ月ごとに展観いたします。
睦月(1月)はまずお正月。徳川将軍家の正月は、東照宮御影への元日礼拝から始まりました。徳川家には今も「元日礼拝」と題された徳川家康の肖像画が伝えられています。また、お雑煮風の習慣もあり、江戸城表の正月儀礼では、兎の肉を入れた吸い物を将軍の祝膳に出し、初登城の大名や幕臣には「兎羹(うさぎのあつもの)」が下賜されました。
如月(2月)は花ひらく春。今日の日本で梅や桜の下での宴が恒例となっているように、将軍自ら春の花を和歌や絵画に描き、御台所は梅や桜などが配された調度品を多数所有して春の花を愛でていました。また、八代将軍徳川吉宗は、庶民のために桜の名所、飛鳥山や墨提(隅田川)を整備したことが知られています。
弥生(3月)は雛の節供。春の風物詩でもある雛祭りには、大奥でも段飾りのきらびやかな雛人形や雛道具を飾っていました。本展でもっとも注目していただきたいのがこの雛道具です。十三代将軍徳川家定正室篤姫と十四代将軍徳川家茂正室和宮の雛道具を中心にご覧いただきます。
展覧会のエピローグでは、将軍家や大名家で賞玩された「ちいさきもの」に注目します。江戸の手仕事の粋が集められた銀細工や象牙人形などの「ちいさきもの」は、後の時代の工芸品に引き継がれていきました。
春の行事にフォーカスしたこの展覧会から、徳川将軍家の年中行事や季節感、美意識などを味わっていただければと思います」
新年となって春を迎えたこの時期、みやびな風趣ただよう会場にぜひ足をお運びください。
【開催要項】
企画展「春を寿(ことほ)ぐ―徳川将軍家のみやび―」
会期:2019年1月2日(水)~3月3日(日)
会場:東京都江戸東京博物館
住所:東京都台東区横網1-9-1
電話番号:03・3626・9974(代表)
https://www.edo-tokyo-museum.or.jp
開館時間:9時30分から17時30分まで、土曜日は19時30分まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:1月7日(月)・28日(月)、2月4日(月)・12日(火)・18日(月)・25日(月)
取材・文/池田充枝