文/柿川鮎子
ソフトバンクのコマーシャルに登場するお父さん犬は白い北海道犬です。NHKのテレビアニメ・名犬ジョリイでは白く大きなグレート・ピレニーズが登場しました。スタジオ・ジブリの映画・もののけ姫では白く大きな山犬が登場して大活躍します。戦後、日本のペットブームの先駆けとなった日本スピッツは、真っ白な毛並みをもつ犬種でした。日本人はなぜ、白い犬が好きなのでしょう。
■古代から続く白い犬好きの国民性
日本人と白い犬との間には、長い歴史がありました。日本書紀では日本武尊(ヤマトタケル)が白い犬に助けられます。日本武尊とその一行は山の神に祟られ、深い山で道に迷います。途方に暮れた一行の前に、突然、不思議な白い犬が表れ、美濃への道を案内しました。
古事記に登場した白い犬は村長を助けました。雄略天皇は若日下部王のもとへ妻問い(妻の元へと通うこと)をしに行きます。途中、立派な村長の家を見つけ、あまりにも立派すぎる家に腹を立てた雄略天皇は、家に火をつけて焼こうとします。家の主であった村長は慌てて自分の白い愛犬を献上すると、天皇は喜び、家に火を着けるのを止め、犬を連れて妻への贈り物としました。
播磨国風土記では応神天皇が愛した白い犬について書かれた「託賀郡伊夜丘条(たかぐんいやおかのじょう)」があります。白い犬は麻奈志漏(まなしろ)という名前で、愛(まな)白(しろ)という名の通り、愛犬シロ君です。シロ君は応神天皇とともに狩りに行き、猪を追って、岡に走って行きました。応神天皇が矢を射るように指示した岡だったので、その場所はいやおか(伊夜丘)という名前になりました。シロ君は猪と戦って命を落としたので、天皇は犬の墓をつくって、手厚く葬りました。
今昔物語集では「達智門(たつちもん)の捨て子の話」で、不思議な白い犬が登場します(巻19第44話達智門棄子狗密来令飲乳語)。ある男が生まれて10日前後の赤ん坊を達智門で見つけます。生きているのが不思議で、夜、密かに達智門で赤ん坊の様子を伺うと、白い犬が赤ん坊に乳を与えていました。人々は、白い犬は子供の命を救う、慈悲深い仏様の化身ではないかと噂をしました。
宇治拾遺物語には藤原道長と白い愛犬の物語が紹介されています(巻第14、御堂関白の御犬晴明等奇特の事)。道長が寺に入ろうとすると、お供をしていた犬が袖を引いてしきりに阻止します。不思議に思って安倍晴明に調べさせたところ、呪いがかけられていました。白い犬が道長の命を救ったのです。
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