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明治時代から昭和初期の大コレクター・原三溪が夢見た幻の美術館を具現化【原三溪の美術 伝説の大コレクション】展

取材・文/藤田麻希

根津美術館のコレクションを築いた根津嘉一郎、五島美術館の五島慶太、藤田美術館の藤田傳三郎、静嘉堂(現・静嘉堂文庫美術館)の岩﨑彌之助と小彌太など、戦前の実業家には国宝・重要文化財クラスの美術品をいくつも集めた、桁違いのコレクターが多くいます。

原三溪ポートレイト 提供:三溪園

原三溪ポートレイト 提供:三溪園

生糸貿易や製糸業で財をなした原三溪(1868~1939)も、戦前の大コレクターの一人です。5000点を超える古美術や茶道具などを集めたほか、横山大観など日本美術院の画家を支援するパトロンとしても活動していました。そして、なによりもスケールの違いを実感するのは、古建築も収集の対象としていたことです。横浜市本牧の広大な敷地に、京都や鎌倉などから歴史的建造物17棟を移築し、「三溪園」と称する庭園をつくりました。なかには、15世紀に建てられた三重塔や、豊臣秀吉や徳川家康が建てたとされるものもあります。それら三溪園の建物はまとまって残り、現在も財団法人が管理して一般公開されていますが、三溪が集めた美術品については三溪没後に多くが分散してしまい、そのコレクションの全容を一望するのは難しい状況です。

そんな原三溪、遺愛の美術品が一堂に会する展覧会が、横浜美術館で開催されています(9月1日まで)。全国の美術館・博物館などに収蔵される旧蔵品などが集まっています。同館主任学芸員の内山淳子さんは次のようにこの展覧会について説明します。

「原三溪は、5000点とも言われるコレクションから名品を選び、自分で解説をつけた『三溪帖』という豪華なコレクション選を刊行しようとしていました。ただ、刊行目前に関東大震災が起こり、その本は出版社の倉庫で焼けてしまい、現存していません。しかし、幸いにもその緒言や解説の自筆草稿が残っているため、掲載される予定であった作品を三溪がどのように価値付けて評論していたかを知ることができます。本展の「コレクター三溪」の章は、それらの草稿に基づき、『三溪帖』への掲載が目論まれていた作品を中心に、構成することを試みました。詳しい記録は残っていませんが、三溪は横浜に自身のコレクションを収蔵・展示する美術館をつくろうとしていたそうです。おそらく、その美術館ができていたら、これらの作品を、その美術館のベスト・コレクションとして見せていたことでしょう。今回の展示は、原三溪の美術館という見果てぬ夢を、多少とも具現化したものともいえます」

それでは、三溪のコレクションを見ていきましょう。

国宝 《孔雀明王像》 平安時代後期(12世紀)、絹本着色・一幅 147.9×98.9cm 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives *展示期間:2019年7月13日(土)~8月7日(水)

国宝 《孔雀明王像》 平安時代後期(12世紀)、絹本着色・一幅 147.9×98.9cm 東京国立博物館蔵
Image:TNM Image Archives *展示期間:2019年7月13日(土)~8月7日(水)

コレクター原三溪の名を世間に知らしめるきっかけになったのが、この、平安時代に描かれた国宝の『孔雀明王像』です。明治36年(1903)、35歳の原三溪は、元大蔵大臣の井上馨から1万円という価格で購入しました。現在の価値に換算するのは難しいですが、当時仏画が数十円から数百円で取引された時代だったことを考えると、いかに高額だったかがわかります。記録によると、三溪は既に集めていたコレクションを売却して1万3000円のお金をつくり、この作品の購入に充てました。

国宝 《寝覚物語絵巻》(部分) 平安時代後期(12世紀)、紙本着色・一巻 26.0×533.0cm大和文華館蔵 *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

国宝 《寝覚物語絵巻》(部分) 平安時代後期(12世紀)、紙本着色・一巻 26.0×533.0cm大和文華館蔵 *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

平安時代の優美な国宝の絵巻『寝覚物語絵巻』も三溪の旧蔵品です。大正6年(1917)に5万円で購入しています。屋根のない建物を斜め上から覗き込んだように描く、吹抜屋台の技法を駆使し、詞書を書く紙は金銀の箔を細かく切った切箔や砂子で美しく装飾されています。この絵巻を現在所蔵する大和文華館は、三溪と交流のあった美術史家・矢代幸雄が初代館長を務めた美術館です。矢代は近畿日本鉄道から美術館設立計画を任され、三溪の美術館づくりの遺志を継ぎ、原家から14点の三溪旧蔵品を譲り受け、大和文華館のコレクションの核としました。ちなみに、本展にはそのうちの9点が出品されています。

重要文化財 伝本阿弥光悦《沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿文笛筒》 江戸時代初期(17世紀)、木製漆塗・一本、長39.6・径3.3cm 大和文華館蔵 *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

重要文化財 伝本阿弥光悦《沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿文笛筒》 江戸時代初期(17世紀)、木製漆塗・一本、長39.6・径3.3cm 大和文華館蔵 *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

この笛筒も大和文華館の所蔵品です。三溪は当時評価が定まっていなかった琳派の作品をいち早く集めており、とくに本阿弥光悦に傾倒していました。金粉を蒔いた地の上に、鉛などの金属の板を貼り付けたり、螺鈿や蒔絵の技法で23頭の鹿がバランスよく表わされています。

《志野茶碗 銘 梅が香》桃山時代(16世紀末~17世紀初期) 陶器・一口、高8.3・口径13.5・底径3.8cm 五島美術館蔵 撮影:名鏡勝朗 *展示期間:2019年7月13日(土)~8月7日(水)

《志野茶碗 銘 梅が香》桃山時代(16世紀末~17世紀初期) 陶器・一口、高8.3・口径13.5・底径3.8cm 五島美術館蔵 撮影:名鏡勝朗 *展示期間:2019年7月13日(土)~8月7日(水)

当時の実業家の多くがそうであったように、三溪も茶の湯を嗜みました。もともとは煎茶趣味だったのですが、益田鈍翁や高橋箒庵といった数寄者との交流を通じ、茶の湯の世界にのめりこみ、茶道具を収集し、三溪園に茶室をつくり、70回以上の茶会を催しました。美術品の購入は関東大震災後、控えるようになりましたが、茶道具については震災後も購入を続けました。こちらは、桃山時代の志野茶碗で、江戸時代後期の大名茶人・松平不昧のコレクションだったものです。

重要文化財 下村観山《弱法師(右隻)》 大正4(1915)年、絹本金地着色・六曲一双 各186.4×406.0cm 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

重要文化財 下村観山《弱法師(右隻)》 大正4(1915)年、絹本金地着色・六曲一双 各186.4×406.0cm 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

重要文化財 下村観山《弱法師(左隻)》 大正4(1915)年、絹本金地着色・六曲一双 各186.4×406.0cm 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

重要文化財 下村観山《弱法師(左隻)》 大正4(1915)年、絹本金地着色・六曲一双 各186.4×406.0cm 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives *展示期間:2019年8月9日(金)~9月1日(日)

三溪は当時の美術家のパトロンでもありました。とくに横浜生まれの岡倉天心との交流から日本美術院の作家を支援しています。生活費を支援し、作品を購入するだけでなく、彼らを三溪園や別邸に招き、自ら収集した古美術を見せて参考にさせたり、夜通し美術談義を交すこともありました。この屏風を描いた下村観山は、三溪が自ら所有する土地を提供して住まわせたほど、気に入っていた画家です。右隻から左隻にかけてダイナミックに描かれる梅は、三溪園の臥竜梅をモチーフにしていると言われています。

今回の展覧会は、三溪遺愛の国宝、重要文化財が30件以上出品される、過去最大規模の三溪に関わる展覧会です。ご覧になる際は、あわせて本牧の三溪園にも足を伸ばすのがおすすめです。より三溪のコレクションの規模を体感できると思います。

【横浜美術館開館30周年記念 生誕150年・没後80年記念 原三溪の美術 伝説の大コレクション】
■会期:2019年07月13日(土)から2019年09月01日(日)
※会期中展示替えあり
■会場:横浜美術館
■住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
■電話番号:045-221-0300
■展覧会サイト:https://harasankei2019.exhn.jp/
■開館時間:10:00~18:00 ※毎週金曜・土曜は~20:00
※入館は閉館の30分前まで
■休館日:木曜日

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

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