取材・文/池田充枝
「だまし絵(トロンプ・ルイユ)」で知られる20世紀を代表する版画家のひとり、マウリッツ・コルネルス・エッシャー(1898-1972)。
今からちょうど120年前、オランダに生まれたエッシャーは、当初は建築を学んでいましたが、版画家・メスキータと出会い版画制作に夢中になりました。
スペインのアルハンブラ宮殿の幾何学模様や、オランダと違って山々や海岸線に起伏のあるイタリアの風景などに魅せられて、旅をしながら多くの作品を残しました。
実際にありそうで現実には存在しえない風景や、ひとつの絵の中に重力が異なる世界が存在するなど「ありえない世界」を描く、唯一無二で“ミラクル”なエッシャーの作風は、世界中の人々を魅了し続けています。
その独創的な世界は、同時代に活躍したどの作家とも交わらず、いわゆる「芸術」の文脈からは外れた存在と見られてきましたが、エッシャーのビジュアルイメージは、クリエイターだけでなく数学者、建築家など幅広い専門家たちにインスピレーションを与えています。
そんなエッシャーの生誕120年を記念して、東京では約12年ぶりとなる大規模展《ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵》が上野の森美術館で開かれています(~2018年7月29日まで)
本展は、世界最大級のエッシャーコレクションを誇るイスラエル博物館の所蔵品より、代表的な「だまし絵」の作品に加え、初期の作品や木版、直筆のドローイングなど選りすぐりの約150点を紹介します。
本展の見どころを、主催のフジテレビ総合事業局イベントセンター事業部の神田比呂志さんにうかがいました。
「1968年から70年代にかけて『少年マガジン』にエッシャーの作品が登場し、エッシャーのだまし絵の世界は読者の間で大ブームとなりました。
当時の『少年マガジン』には、「あしたのジョー」や「巨人の星」が連載されていて、子どもたちに大人気でした。元男子のみなさんには懐かしい思い出かもしれません。
エッシャー生誕120年を記念して開催される本展は、東京ではおよそ12年ぶりの大規模展覧会です。約150点もの作品がイスラエル博物館より初来日いたします。
このページで紹介させていただいている作品以外にも、無限階段をモチーフにした《上昇と下降》や《滝》などのおなじみの作品、そして彼が10代の頃の作品や、広告のために作られた珍しい作品、風景画など、「だまし絵」だけでない様々な作品をご覧いただけます。
なかでも約4mの貴重な大作《メタモルフォーゼII》は圧巻です。
エッシャーは数学や科学的視点から語られることの多いアーティストですが、一方でコンピューターのない時代にあの細密な世界をすべて手作りで仕上げたという徹底した職人的な「版画家」でもありました。版画は複製のできる芸術ですが、一枚一枚手作業でプリントした作品は、どれも微妙な版のずれや色の重なり、かすれが起こります。この手作業でしか起こらない細部のずれこそが版画の魅力です。
会場ではぜひ目を凝らして普段見過ごしがちな作品の細部、エッシャーの職人技にもぜひ注目してご覧いただければと思います」
デジタル時代の今だからこそエッシャーの偉業が再確認できる展覧会です。ぜひ会場でご堪能ください。
【開催要項】
生誕120年 イスラエル博物館所蔵
ミラクル エッシャー展
奇想版画家の謎を解く8つの鍵
会期:2018年6月6日(水)~7月29日(日)
会場:上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://www.escher.jp/
開館時間:10時から17時まで、金曜日は20時まで
(入館は閉館30分前まで)
休館日:会期中無休
※会期終了後は、あべのハルカス美術館(11月16日~1月14日)に巡回します。以降、福岡と愛媛でも開催予定です。
取材・文/池田充枝