取材・文/池田充枝
浮世絵師・月岡芳年(1839-1892)は、江戸から明治へと変遷する時代に活躍した絵師です。浮世絵の需要が失われつつあった当時において、最も大成した絵師であることから「最後の浮世絵師」と称され、人々を魅了し続けています。
本名は吉岡米次郎。別号に一魁斎(いっかいさい)、魁斎、大蘇(たいそ)など。12歳のとき当時の人気絵師、歌川国芳の門に入り、3年後に早くも錦絵初作を発表。慶応2年(1866)に兄弟子の落合芳幾(よしいく)とともに描いた「英名二十八衆」の残酷絵シリーズで一躍人気絵師となりました。明治維新後は、時事報道の分野に新生面を見出して新聞挿絵で活躍しました。
役者絵、歴史画、物語絵、美人画など幅広い題材を描いていますが、時代の変革にあわせ西洋画の研究も行い、人物描写や構図において近代的な感覚をみせました。その絵は、谷崎潤一郎や江戸川乱歩、三島由紀夫など、大正・昭和に活躍した文学者たちにさまざまなインスピレーションを与えたといわれます。
そんな芳年の初期から晩年に至る代表作を紹介する展覧会《芳年 ―躍動の瞬間と永遠の美》が神戸ファッション美術館で開かれています。(~2018年3月11日まで)
本展は、世界屈指の芳年コレクションとして知られる西井正氣氏所蔵の作品から代表作を網羅した特別展です。歴史画、物語絵、美人画など約200点により、芳年の巧みな技と、豊かな想像力、卓越した画面構成のセンスがうかがえます。
本展の見どころを、神戸ファッション美術館の学芸員、浜田久二雄さんにうかがいました。
「今年、神戸は開港150周年を迎えましたが、幕末から明治時代を経て近代化への道を突き進んだ日本。その未曽有の激動の時代を乗り切り、時に激烈な、時に静謐な浮世絵を、54歳で没するまで描き続け、いつしか「絵の鬼」とまで呼ばれたのが月岡芳年です。
「芳年」の名は知らなくとも、凄惨な流血表現を伴う《英名二十八衆句》《東錦浮世稿談》《魁題百撰相》はどの作品は広く知られているので、ヴィジュアルの認知度なら葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳らに匹敵するほどですが、しかしながら残酷なイメージが災いするのか、今日まで開催された展覧会が極めて少ないのです。これらの特殊な絵画は、20代の3年間だけに制作されました。
本来、芳年は歴史画や妖怪絵、美人画の名手でもあり、一方で新時代の潮流に乗り、新聞や小説挿絵で大衆の人気を得るなど、その画業は多岐にわたります。優れた浮世絵の技術を基に西洋画の研究を重ねた成果として、その大胆な構図、鮮やかな色彩、人物のアクロバティックなポーズは、現代の目で見ても驚かされるものばかりです」
凄惨と静謐、相反する表現世界をもつ稀有な作家の内面を覗ける展覧会です。唯一無二の「芳年ワールド」を会場でご堪能ください。
【芳年 ―躍動の瞬間と永遠の美】
会期:2018年1月13日(土)~3月11日
会場:神戸ファッション美術館
住所:神戸市東灘区向洋町中2-9-1
電話:078・858・0050
http://www.fashionmuseum.or.jp開館時間:10時から18時まで(入館は17時30分まで)
休館日:月曜日(ただし2月12日は開館)、2月13日(火)
取材・文/池田充枝