選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
ヴィオラ・ダ・ガンバという弦楽器をご存知だろうか。フランスではヴィオールと呼ばれ、ルイ14世にも愛されたその音色は、重厚で味わい深く、バロック音楽には欠かせない存在である。19世紀になるとチェンバロと同様すたれてしまったヴィオラ・ダ・ガンバだが、最近ではその魅力が見直され、愛好者も増えている。
構えといい大きさといい、一見チェロとよく似たヴィオラ・ダ・ガンバだが、両者の違いを同一の演奏家の弾き比べによって楽しんでみようという冒険的な趣向のアルバムが登場した。1989年生まれの島根朋史による『レ・モノローグ』である。無伴奏チェロと無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバの作品ばかりが集められており、文字通りモノローグの世界が展開されている。そこで感じられるのは、これらの楽器がどちらも、いかに人の声に近く、いかに深いか、ということだ。暗闇の中の一筋の光のように、瞑想的な音楽にたっぷり浸れる1枚である。
【今日の一枚】
レ・モノローグ─無伴奏チェロと無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバのための作品集─
島根朋史(チェロ&ヴィオラ・ダ・ガンバ))
発売/ALM RECORDS コジマ録音
電話:03・5397・7311
2800円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2019年8月号のCDレビュー欄「今月の推薦盤」からの転載です。