取材・文/関屋淳子
佐賀県の北西に位置する唐津市は玄界灘に面する風光明媚な地。じつは唐津は豊富な海の幸に加え、ブランド牛、佐賀牛のふるさとでもあるのです。
今回は唐津を訪ね、牧場直営店で佐賀牛を味わい、鮨の名店で魚の魅力を楽しみました。
世界中で認められる佐賀牛
佐賀牛を御存じでしょうか?じつは数あるブランド牛のなかでも、その定義が厳しく、品質保持に力を入れ、出荷頭数も限られる極上の牛肉なのです。佐賀牛はJAグループ佐賀管内肥育農家で飼育された黒毛和種で、日本食肉格付協会の定める牛取引規格の最高の肉質である5等級および4等級の脂肪交雑値のBMS.7以上を指します。BMSは12が最高値で、値が高くなるほど霜降り度が高くなります。
昭和58年、県下の若手肥育農家グループが肉質の良い肉牛の研究を始めたことをきっかけに、ブランド牛にまで育て上げ、平成12年の九州・沖縄サミットでは、ディナーに供されました。現在では香港・マカオ、アメリカ、シンガポール、タイなどへ輸出され高い評価を得ています。その美味しさの秘訣は、粗飼料となる稲わらにあるとか。米どころである佐賀県には栄養価が高い稲わらが豊富。美味しいお米のわらは美味しいに違いありません。また自然豊かな土地で伸び伸びと育つことも、佐賀牛の品質保持に役立っているのです。
なかでも唐津は佐賀牛の里といわれています。今回訪ねたのは市内にある「佐賀牛なかむら」。この店舗では直営牧場で丹精込めて飼育された30か月の雌の未経産牛を供しています。もちろん、成長促進剤やホルモン剤は一切与えず、発酵食品を主体にブレンドした独自のエサを牛の状態を見ながら与えています。
店内ではステーキ・しゃぶしゃぶ・ハンバーグなどの気軽なランチメニューから佐賀牛の美味しさを味わい尽くすコースまでそろっています。
それでは実食! デギュスタシオンコース(ひとり1万5000円、2名より要予約)は、前菜やサラダ、オマールエビや鮑の鉄板焼きに続き、フォアグラ、サーロイン、ヒレのステーキが続く贅沢なものです。
生の状態の牛肉は細やかなサシが入り、ほんとうに美しく、まさに芸術品! 鉄板の上でほどよく焼き上げたヒレは繊細できめ細かく、やわらかくあっさりとした味わい、そしてサーロインは脂身が上品で甘く、噛みしめるごとに肉の旨みが滲み出ます。肉質の良さを感じるのは、もたれることなく後味がすっきりしていることからもよくわかります。本物の牛肉の旨みを実感できるのです。こちらの牛肉は佐賀牛のなかでも唯一、牧場名が付く「なかむら牛」の表示を許されているそうです。
締めのご飯はガーリックライスのほかに佐賀牛時雨煮だし茶漬けも用意され、こちらも美味。優雅な雰囲気の店内で、存分に佐賀牛が堪能できます。
「佐賀牛なかむら」
佐賀県唐津市浜玉町横田下954
TEL:0955-56-8866 http://www.nakamura-farm.net/nakamura/
「つく田」で味わう九州前
江戸前鮨に対して、九州の魚介類でしっかり仕事をして握る九州前。その味わいを堪能できるのが唐津の「つく田」です。平成5年の開店以来、この店に来るためだけに名だたる美食家が足を運ぶという名店です。
ご主人の松尾雄二さんは東京・銀座の「きよ田」で修業。赤酢を用いる硬めのシャリは、その薫陶を受けているのでしょう。ネタはほとんどが唐津産。なかでもイカは唐津が最高と言い切ります。また、鰯やキスなどは漁場が近いほど旨いとのこと。ちなみに鮪は置いていません。それぞれの魚がしめたり、漬けたり、蒸したり、焼いたり、煮たりと、適切に処理され、一番美味しい状態で目の前に置かれます。
魚の特徴を知り、その味わいを最大限に引き出す鮨に対し、一貫毎に、自身の旨みセンサーがフル回転しているのがわかります。豪快で繊細で、五感の一番深いところを刺激されるようです。つまみも、コメイカのアスパラ和えや、シラサエビと焼きナスのペースト、サザエと胡瓜の酢の物はオリーブオイルでなど、オリジナリティに溢れます。
さらに、気持ちを高揚させてくれるのが酒器をはじめとする唐津焼の巨匠・中里隆さんの器。中里隆さんは唐津焼十二代中里太郎右衛門(無庵)の五男として生まれ、中国の窯元をはじめ世界中を巡ったのち、唐津に築窯。実力・人気を備える陶芸家です。ああ、こんな素敵な酒器で毎日お酒が呑みたいと、思うのは私だけではないはず。
店は現在、ご主人と、息子の文平さんの二人体制。夜のおまかせは1万7000円~、昼は握り一人前、6000円、つまみと握りで9000円です。
口福の鮨と佐賀牛のほんものの味、唐津でなければ出合えない佐賀の旨いもんを味わいに出かけてみてはいかがでしょう。
「つく田」
佐賀県唐津市中町1879-1
℡0955-74-6665 http://tsukuta.9syoku.com/
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。