選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
1971年パリ生まれの指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロト、彼が率いるオーケストラ「レ・シエクル」のコンビは、作曲者が生きていた当時の楽器の響きを再現しているのみならず、それを幅広い時代のレパートリーに適用させ、一人一人の奏者が多様な楽器の持ち替えも頻繁におこなうという点で革新的である。
今回の『ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲、遊戯、夜想曲』は、CDとDVDの2枚組だが、ぜひ映像のほうから鑑賞されることをお勧めする。スペインはグラナダにあるアルハンブラのカール5世宮殿での演奏会を収めたもので、ドビュッシーの精緻な管弦楽が、うねるような生気、香り立つような繊細さ、中間色の色彩感によって演奏されているのが、視覚の力ともどもダイナミックに伝わってくるからだ。楽曲の途中で宮殿の外の鳥たちが音楽に合わせてさえずる様子は、自然と音楽の一体化を示しているようで、実に美しい瞬間である。夜想曲では、奏者たちの間に数人ずつ散らすように女声合唱を配置させることで、魔法のように声がオーケストラのなかから湧いてくる様子が確認できる。
【今日の一枚】
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲、遊戯、夜想曲
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮 レ・シエクル
発売/キングインターナショナル
電話:03・3945・2333
3000円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2019年7月号のCDレビュー欄「今月の推薦盤」からの転載です。