文/鈴木拓也
「脳が成長するのは生まれてから3歳まで」、「脳は20歳を過ぎたら衰える一方」といった、脳の成長に関する「一般常識」。脳科学の進歩によって、こうした常識は過去のものとなった。
代わって今は「脳は100歳を過ぎても成長する」。もう少し厳密に表現すれば「50歳前後までなら、脳を意図的に成長させようとしなくても、老化して衰えることはほとんどなく、認知能力や運動能力も横這いです」と明言するのは、脳内科医で加藤プラチナクリニックの加藤俊徳院長だ。
加藤院長は、50歳以降については「すべての人が脳を成長させることができる」としながらも、自助努力がウェイトを占めるようになると、著書の『50歳を超えても脳が若返る生き方』(講談社)で唱えている。要は筋トレと同じで、脳も鍛え続けていかないと「認知症になる可能性が格段にアップする」と警告。そして、認知症など脳のトラブルを防ぐセルフケアを多数提示している。それらは、かつて流行した「脳トレ」のような単純で飽きやすいものとは真逆の処方箋。しかしながら、日常生活に取り入れやすく、続けやすいものが主体となっている。そうした、本書にあるセルフケアを幾つか紹介しよう。
■神社仏閣の参拝やお墓参り
脳は刺激を受けることで活性化し、脳力の低下を抑えるが、その刺激は体操でもよいという。
その体操として、加藤院長がすすめているのが「神社仏閣への参拝やお墓参り」。
「神社やお寺、あるいはお墓に移動する際には、高低差のある長距離を歩くので、運動系脳番地を派手に使います。また、先祖や神様に感謝の気持ちを持って手を合わせることは、ほかの人に思いやりを持つことにもつながります。このときの思いやりは、感情系脳番地を活性化させ、想像力が育まれるのです」(本書211pより)
「脳番地」という耳慣れない用語が出てくるが、これは、脳内で同じ働きをする複数の脳神経細胞の集合体。全部で約120の脳番地があるが、なかでも運動系脳番地や感情系脳番地は、人が健康に生きるために特に重要な脳番地。日頃から、この脳番地を意識してトレーニングするようアドバイスされている。神社仏閣めぐりは、複数の脳番地を活性化する意味で効果的な「体操」というわけ。
■ホウキを使った掃き掃除
家の掃除をしてくれるロボットが普及して、ふだんの掃除が楽になった。だからといって、「サボるようになると、脳は一気に老けていきます」と加藤院長は言う。これを防ぐのが、昔ながらのホウキによる掃き掃除。
「掃除をすると運動系脳番地が活発になるだけでなく、ほかにもいろいろな脳番地を使います。ホウキで掃くときは、床にゴミがないかと目を動かしますが、このときは視覚系脳番地を使っています」
(本書203pより)
掃き掃除による効果を高めるには、「リビングは10分、寝室は5分と、細かくリミットを設けて作業」するとよいという。時間的期限を意識したこのやり方は、記憶系脳番地を元気にさせる。時間の使い方が上手な人が、認知症になりにくいのは、記憶系脳番地が若々しいせいだとも。
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