取材・文/田中周治
プロ野球解説者の大島康徳さんの癌が見つかったのは、2016年のことだった。大腸癌ステージ4。肝臓にも転移していた。手術を受けなければ余命は1年。医師にそう宣告された。突然の癌宣告に大島さんはどう向き合ったのか。癌発覚から手術、そして抗癌剤治療を続ける現在までの経緯を振り返ってもらいながら、当時の心境を語ってもらった。家族の存在。野球人であることの幸せ。癌患者が暮らしやすい社会。自分が癌患者になったからこそ初めて気づけたこととは何なのか、3回に渡ってお伝えする。~その1~はコチラ
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自分の身体の状態を多くの人に理解してもらうため治療の経緯公表を決意。
2016年10月に大島康徳さんは、大腸がんステージ4の診断を宣告された。翌11月の手術で腫瘍部位を切除。肝臓に転移した癌については、抗癌剤で治療に当たることになった。
翌17年2月。大島さんは癌発覚から手術、治療の経緯をブログで公表した。もちろん、簡単に決断を下したわけではない。見ず知らずの相手の心無い意見が耳に入るケースも増える。闘病を公にするリスクは理解していた。それでも公表に踏み切ったのは、野球解説者の仕事に復帰する上で、自分の身体の状態を多くの人に理解してもらう必要があると考えたからだった。
「当時は、手術前から15キロほど痩せていましたからね。テレビ局の方も仕事を依頼しにくいでしょうし、視聴者の方もいきなり痩せた姿を目にしたら驚くでしょう。自分は以前と変わらず仕事ができる。そのためには、私の体調面であるとか治療について正しく理解してもらう必要がある。でも、その内容を仕事関連で出会う方たち一人一人に説明していくのは限界がありますからね。だから公表したんです」
大島さんは17年3月から仕事を再開。ラジオニュースのスポーツコーナーへの出演を果たし、翌4月にはプロ野球の試合解説の現場にも復帰した。
「久しぶりにグラウンドに足を運んだ時、多くの方に優しい言葉をかけていただき、ありがたくて嬉しかったです。野球人……特に自分と同年代から上にかけての方たちは、良い意味でさっぱりしているので、その加減も心地よかったですね。『どうなんだ? ……うん……頑張れ!』。自分も含め、勝負の世界で生きてきた野球人には、ある種の覚悟が備わっているように思います。そういう覚悟があるから、癌に対しても必要以上に反応しないというか……。先輩たちの中には実際に癌を経験された方もいらっしゃいますしね。心配し過ぎない、さっぱりした対応は、凄くありがたかったです」
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