取材・文/鈴木拓也
日光山内は日光東照宮、二荒山神社、輪王寺からなる聖域だ。世界遺産『二社一寺』を戴いているこの場所は、江戸時代において諸大名・旗本から庶民に至るまで、様々な人々がこの地へ参詣した。江戸時代の後期になると、庶民の参拝が目立って増え、数年間のみで3万人に及んだという。
参詣者の増加に伴い、付近は門前町としての体裁が整えられてゆき、参道の両脇には甘味処が軒を連ねた。そこで提供された菓子は、さぞや歩き詰めの参詣者の疲労をいやしたことだろう。中でも、特に人気があったのが羊羹であった。日持ちがするため、持ち帰りのみやげの品にも最適であったことが、人気に拍車をかけたようである。
さて、現代においても羊羹は、湯波と並んで日光参道の名物である。創業が江戸時代にさかのぼる店、最近になって看板を掲げた店を含めると、羊羹を取り扱うところは10店近くはあるだろうか。「羊羹街道」と呼ぶ人がいるくらいだから、結構目立つし、必然的に日光詣での帰りのみやげは羊羹にしたくなる。
そこで今回は、「羊羹街道」で見かけた店の中から、(日光駅に近い順に)老舗の5店を紹介しようと思う。
「湯沢屋」
化政文化が花開いた頃になると、日光詣でする庶民が増えたおかげで、当地では甘いものへの需要が急増した。これを受けて、文化元年(1804)に創業したのが湯沢屋である。
当初は酒饅頭を作っており、日光の社寺の御用も承る名店であった。そして、明治時代に入ってからは、羊羹も作り始める。やがて、その優れた品質が多くの人たちに認められ、酒饅頭と並ぶ看板製品となった。
「湯沢屋」では、定番ともいえる煉羊羹と水羊羹のほかに、湯波の老舗海老屋で作られる豆乳を用いた豆乳水羊羹『鉢石』、元祖『志そまきとうがらし』で知られる落合商店とのコラボから生まれた『日光唐辛子羊羹』(平成26年度関東地方発明奨励賞受賞)が販売されている。また、隣接する「湯沢屋 茶寮」では、水羊羹緑茶セットなど当店の和菓子を賞味することができるので、暑い夏にはここで涼みたい。
【湯沢屋】
住所:日光市下鉢石町946
電話:0288-54-0038
営業時間:8:00~18:00
定休日:不定休
公式サイト:http://www.yuzawaya.jp
「鬼平の羊羹本舗」
水羊羹は夏の風物詩の印象があるが、昔の日光では水羊羹は炬燵に入って食べる冬の食べ物であり、おせち料理にも入っていたという。作り手も、底冷えのする気候を生かして水羊羹作りは冬に行い、雪の中で保冷した。
昭和の初めに羊羹店として出発した「鬼平の羊羹本舗」は、地元の人たちから「水羊羹といえば、この店」と挙げられるほどの名店だ。
ここの水羊羹は、小豆、砂糖、寒天、日光の水だけを原料に、3回さらしてあく抜きをするなど手間ひまをかけて作られたもの。羊羹は好きでないが「鬼平の水羊羹」なら食べられるという人もいるほど。もちろん煉羊羹(本煉、栗、塩)も好評で、買いに立ち寄る観光客が絶えることはない。
ちなみに、屋号の「鬼平」は「きびら」と読む。もとともは「おにだいら」であったが、先祖が輪王寺の寺侍だった頃に、勤仕先からこの呼び名を賜ったという。
【鬼平の羊羹本舗】
住所:日光市中鉢石町898番地
電話:0288-54-0104
営業時間:8:30~18:00
定休日:火曜日(祝日の場合は翌日定休)
「吉田屋羊羹本舗」
吉田屋羊羹本舗は、宇都宮の菓子匠からのれん分けし、日光を商いの場と定めて明治初期に創業した。当初の屋号は「甘養堂」であったが、「日本一になる」という気持ちをこめ、当主の古田姓に横棒を1本足して吉田屋に変えたという逸話が残っている。
二社一寺や古峯神社をはじめとする、多くの社寺の神饌・御供物を納めてきた実績・伝統を、第5代当主が今に継ぐ。製品は、水羊羹と棹羊羹(煉・塩・大納言・栗)のほか、あらかじめ一口サイズに切り分けた『一口羊羹』が観光客に人気。そして、大正時代に日光田母沢御用邸に献上したという羊羹を完全復刻した、『献上竹皮包 なつかし羊羹』がある。材料から包装に至るまでこだわりぬき、約2週間かけて作られる羊羹で、常に店棚にあるわけではないが、見つけたらぜひとも賞味したい逸品である。
【吉田屋羊羹本舗】
住所:日光市中鉢石町903
電話:0288-54-0009
営業時間:9:00~18:00
定休日:水曜日
公式サイト:https://www.yoshidaya-youkan.com
「三ッ山羊羹本舗」
明治28年に三ッ山兼太郎が創業して以来、一貫して羊羹専業の店として栄えてきたのが、「三ッ山羊羹本舗」。
(現在は記念公園となっている)日光田母沢御用邸にて静養される皇族への献上品として受納されたほか、大隈重信公より「全国特産品博覧会・有功銀賞」を賜るなど誉れ高く、厳選された素材を用いた、創業時と変わらぬ羊羹作りに今も邁進する。
現在は、贈答にも喜ばれる『竹皮包羊羹』(本煉、栗、塩、抹茶の4種)のほか、『一口羊羹』、『水羊羹』、『棹物羊羹』(塩、栗、塩の3種)のラインナップを擁し、いずれも好評という。
【三ッ山羊羹本舗】
住所:日光市中鉢石町914
電話:0288-54-0068
営業時間:9:00~18:30
定休日:元旦のみ
公式サイト:http://www.mitsuyamayoukan.co.jp
「綿半」
「綿半」本店は、他の羊羹店のある町並みを抜け、朱塗りの欄干が美しい神橋を左に見ながら道なりにずっと進んだ安川町内にある。
創業は天明7年(1787)と、日光の羊羹店では最古の老舗。江戸時代においては、二社一寺の御用を勤めるほか、日光に代参してきた諸大名や公家の進物用として羊羹を献呈し、全国に「日光綿半の煉羊羹」の名を知らしめた。下って明治の世に入ると、宮内省御用達を賜るなど名声は衰えることなく、今の時代に至る。
看板製品は『竹皮包煉羊羹』。製造に手間がかかるため大量生産ができず、メディアで紹介されるたびに品薄になるほどの人気を博している。
【綿半】
住所:日光市安川町7-9
電話:0288-53-1511
営業時間:8:30~17:30
定休日:火曜日
公式サイト:http://www.nikko-watahan.jp
※日光駅寄りの市役所近くに「大通り店」(下鉢石町799)がある。
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以上、日光の羊羹の老舗を5店紹介した。日光二社一寺観光の帰り道に、お土産さがしに立ち寄られてみてはいかがだろう。
取材・文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。