取材・文/柿川鮎子 写真/木村圭司

被災しても犬は散歩は大好き。人と触れ合い、散歩や遊びで傷ついた心を癒し、日常生活を取り戻していく。

環境省の改訂版では同行避難の定義が変更に

ペットを飼っている人が被災した場合は、ペットとの同行避難が原則でした。しかし、熊本地震の避難場所でペットに関するトラブルが発生。その結果、今年2月、環境省は飼い主とペットが必ずしも同室で一緒に過ごせないケースがあると「人とペットの災害対策ガイドライン」で明らかにしました。「同行避難は避難所でペットを人間と同室で飼育管理することを意味しない」と改訂版で明記したのです。実際、西日本豪雨ではこの方針に則って、ペットと人の同行避難が行われました。

岡山県総社市では、16日現在、市内11か所の避難所のうち市庁舎など3カ所をペット同伴者用に提供しました。飼い主と一緒に過ごしているせいか、吠え声などの問題は発生していないと総社市災害対策本部の担当者は17日付産経新聞のインタビューに答えていました。

東日本大震災ではペットがいる避難所は、いない避難所に比べると人間関係が和やかでギスギスせず、犬に関する会話が多くて居心地がよかった(撮影者談)。

飼い主は同行避難と同伴避難の違いを知っておく

災害時にペットを自宅に置き去りにせず、一緒に安全な場所へ行く「同行避難」は、ペットの飼い主の常識として定着しました。環境省の改定にはこの同行避難に加えて「同伴避難」への言及もあります。

「同行避難」が、ペットとともに安全な場所まで避難する行為(避難行動)を示す言葉であるのに対して、「同伴避難」は、被災者が避難所でペットを飼養管理すること(状態)を指す。ただし、同伴避難についても、指定避難所等で飼い主がペットを同室で飼養管理することを意味するものではなく、ペットの飼養環境は避難所等によって異なることに留意が必要である。(環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」抜粋)

避難所で一緒に暮らせるか否か、いつも一緒にいる飼い主にとっては大きな問題です。避難した場所で、ペットが飼い主のいる部屋に入れないケースがある。それは、あらかじめ知っておいた方がいいとひびき動物病院院長の獣医師、岡田響さんは言います。

「これまで、同行避難と同伴避難があいまいになっていたので、ここできちんと明確化されたのは意義のあることだと思います。このガイドラインは平成25年6月に策定して自治体に配布した「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を元に改訂したもので、飼い主さんにとっても大変参考になる内容が書いてあります。飼い主さんはぜひ一読していただきたい」とアドバイス。

 飼い主が行うべき「平常時」の対策

岡田さんはこのガイドラインが犬の飼い主にとって参考になる内容がもりだくさんだと言います。「特に、”健康面やしつけを含めた、ペットの平常時からの適正な飼養が、最も有効な災害対策になる。また、多数のペットを飼養する時は、同行避難することが可能な頭数か否かについても、十分に検討しておく必要がある。”という部分は本当にその通りだと思いますよ。特に「飼い主が行うべき対策の例・平常時」は参考になります」とアドバイスしてくれました。

飼い主が行うべき対策の例<平常時>
・ 住まいや飼養場所の防災対策
・ ペットのしつけと健康管理 ・ 不妊・去勢処置
・ ペットが行方不明にならないための対策(鑑札、迷子札、マイクロチップ等による 所有者明示)
・ ペット用の避難用品や備蓄品の確保
・ 避難所や避難ルートの確認等の準備
・ 避難所以外の避難先やペットの預け先の確保
・ 飼い主同士の共助のためのコミュニケーションと良好な関係の構築
・ 避難訓練への参加と家族単位の避難訓練(シミュレーション)の実施
・ 携行できるペット情報のまとめ(治療記録、ワクチン接種歴など)
(環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」抜粋)

避難用具の実例を紹介

このガイドラインでは、普段備えておくと便利なペットの避難用品についても記載されています。フードや水、リードだけでなく、がれきの中を歩いても肉球が傷つかない犬用靴下やバンテージなど実際に東日本大震災で被災した時に役立った用品が紹介されており、細かな配慮が行き届いた内容になっています。

岡田さんによると、「ペットの避難用品では必要なモノの優先順位をつけて紹介した上、『重い物、大きな物などは避難の妨げになるため、いったん避難した後で安全を確認してから持ち出せるように、屋外倉庫や駐車場等、保管場所を工夫する』など、基本的な保管方法もちゃんと教えてくれています。緊急時の生活に必要な事、知っておいた方がいい事が書いてありますよ」と言います。

「備えておくだけで、必要なかったというのが一番いいのですが、自然災害はいつどこで起きるかわかりません。避難所生活では、自分を守る自助、そしてそれと同時に共助する行動がないとペットと一緒の生活は難しいだろう、と言われています。岡山県総社市のペット同伴者用施設ではペットと人がトラブルなく過ごせているということで、飼い主たちが共助しあって過ごされているだろうと想像します。こうした事例も参考にしたいですね。犬の飼い主さんは、是非この環境省のガイドラインを読んで、チェックと備えを進めてください」と教えてくれました。

取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

写真/木村圭司

 

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