取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

40余年、二足の草鞋を履いて走り続けてきた西高志(にし・たかし)さん。大手総合商社マンとプロのミュージシャン。4年前に商社を定年退職し、今は念願の音楽活動ひと筋の毎日だ。

「朝8時頃に起きますが、第1食目を摂る11時頃までは黒ニンニクやゼリー飲料を口にしながらメールなどをチェック。あまり生産的な時間ではありませんね」と西高志さん。

母はピアノ、父も趣味でジャズを歌うなど、子供の頃から“音楽一家”という環境で育った。自身も小学生の時にピアノとフルートを習い始め、中学生の時に聴いたハービー・マンのジャズフルートに全身が震えた。これが音楽人生の方向を決定づけた。

高校でジャズの真似事を始め、ドラムの楽しさに目覚めたのは20歳の頃だ。慶應義塾大学を卒業。社会人になっても音楽と寄り添った生き方を望んだが、「両親始め、皆が猛反対。内定をもらっていたレコード会社への就職を諦め、商社に入社しました」と、西高志さんは当時を振り返る。商社マン時代は欧米や中東諸国など、世界中を駆け巡った。それはそれで面白い仕事だったが、この間もミュージシャンとしての活動をやめたわけではない。米ロサンゼルス支店時代には、著名なドラマー、チャック・フローレスにも師事できた。

「社員のプライベートライフにも理解ある会社だったからこそ、音楽活動も続けることができました」

平成17年、ジャズボーカリストの中西雅世さんとデュオ・ボーカル・ユニット「AIR(エアー)」結成。ドラマーからボーカリストへの転向は、50歳を過ぎてのことだった。

「世のお父さんがビールを飲みながらプロ野球中継を見ている時に、僕はライブハウスで明け方まで演奏を続け、寝る間もなく会社へ行っていたのです」という西さんは、商社マン時代から朝食を摂る習慣がない。1分でも長く寝ていたいからだ。今はジャズ歌手ひと筋の生活だが、その習慣は変わらない。朝食といえるのが、昼前に摂る第1食目だ。

【西 高志さんの定番朝めし】右から、お茶漬け(「海苔茶漬」・鮭のフレーク・山葵)、奈良漬け。お茶漬けには鮭のフレークに代わり、とろろ昆布をのせることもある。

「お茶漬けが定番ですが、時間があってその気になれば、厨房にも立ちます。僕が作るヴィシソワーズ(葱を入れたじゃがいもの冷製スープ)は絶品ですよ」

作り方は簡単。じゃがいも、玉葱、長葱を切ってバターで炒め、玉葱が透明になれば水を入れてブイヨンで煮る。冷めたらフードプロセッサーにかけ、生クリームを加えて、牛乳で濃度を調節する。友人らとの持ち寄りパーティでも喜ばれる自慢料理だ。

【西 高志さんの定番・朝めし(時間と気持ちに余裕がある場合)】前列右から時計回りに、ヴィシソワーズ(青葱)、ももハムの切り落としとスクランブルエッグ、トースト(バター)、オレンジジュース、トマトサラダ(玉葱のみじん切り・ローズマリー・ドレッシング)、コーヒー。オレンジジュースは果汁100%を愛飲。トマトサラダには、東京・日本橋の洋食屋『たいめいけん』の玉葱ドレッシングをかけて、コーヒーはブラックでいただく。

喉を労り、練習は1日数時間。生涯現役を目指す

東京・銀座のライブハウス。西高志さんのバリトンと中西雅世さんのメゾソプラノが甘く優しく、店内に響く。ふたりが重ねてきた来し方が、ステージや音楽ににじみ出る。平成25年、ジャズサイトの草分け『Jazz Page』の人気投票で、ボーカル部門第2位を受賞したのも頷ける貫禄だ。

今も月15回ほどジャズライブの舞台に立つ。西さんのバリトンと中西さんのメゾソプラノが絶妙なコンビネーションを奏で、ファンも多い。歌の合間のふたりの掛け合いが、また楽しい。

大人のための心地よいジャズをテーマに、中西さんと東京のみならず全国ツアーも行なっているが、その陰には日々の精進がある。

週1回、1時間のボイストレーニングを課す。師はバリトン歌手の長野安恒さん。クラシックの教材を使っての練習だが、正しい姿勢や発声法などジャズとの共通点は多い。自宅1階のスタジオで。

「ジャズ歌手にとって風邪は大敵。家に帰ったら手洗いとうがいを入念にし、また喉を乾燥させないようにマスクをして寝る。冬季は部屋に加湿器も欠かせません」

練習は1日数時間。商社マン時代は、朝早く起きて発声練習をしていたという。「AIR」としてのレパートリーは、スタンダードナンバーを中心に100曲余り。生涯現役を目指して、ふたりの練習にも多くの時間を費やす。

ソロ、ユニゾン(斉唱)、ハーモニーとさまざまな組み合わせを駆使して生まれるふたりのコンビネーション。“古き良き時代”を思い出させる風格が漂う。

週1回、パーソナルトレーナーの小泉誠さんの指導の下、トレーニングに励む。小泉さんについて6年、10㎏の減量に成功した。

取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

※この記事は『サライ』本誌2018年3月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。

 

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