文/中村康宏

日本人の食生活の欧米化、運動不足の蔓延などの生活習慣の変化は、糖尿病、脂質異常症、肥満などの代謝性疾患の増加をもたらしました。これらのいわゆる生活習慣病は、徐々に発症・進行し自覚症状がない、という点が共通しています。それゆえ、患者さんの病識は低く、気づいたときには手遅れということが多いのです。

生活習慣病を予防し管理するにあたっては、治すことよりも病気に気づくこと、病気を正しく理解することが重要になります。

今回は生活習慣病の一つである「脂質代謝異常症(高コレステロール血症)」にスポットを当て、ありがちだけれど間違った知識と、身を守るための正しい知識について解説します。

*  *  *

コレステロールと動脈硬化の研究は100年以上に及び、その因果関係は完全に証明されています。最も大きな功績は、ノーベル賞受賞のゴールドスタイン博士が1976年に発見したLDL受容体です。これにより、コレステロール上昇と動脈硬化発症のメカニズムが明らかとなりました(※1)。そして同じ年、わが国の遠藤章博士により、このLDL受容体を介した画期的な薬剤「スタチン」が発見されました(※2)。このスタチンにより、コレステロールを確実に低下させることができるようになりました。

これらの研究成果のおかげで、今では学問的にほぼ解明されているコレステロール異常症ですが、いまだにメタボリックシンドローム(以下、メタボ)や生活習慣病の中核をなし、解決にはほど遠い状況にあります。それは、治療に関する誤った認識が治療開始を遅らせたり、服薬コンプライアンスが悪いために治療効果を減弱させているからです。

たとえば以下のように考えている患者さんがよくいますが、要注意です。あなたはこんなことを、医師に言ったりしていませんか?

■パターン1:毎年検診で指摘されているから大丈夫です。薬を飲むほどではありません」

日常診療において、このような患者さんはよくお見受けします。理由として、病院に来るのが面倒くさい、一生薬を飲み続けるのはいやだ、薬に頼りたくない、日常生活に改善の余地があるので頑張りたい、などが挙げられ、なかなか治療を開始できないことがあります。

しかし、なぜ健診に取り込まれているのかを考えてください。それは高コレステロール血症が確実に健康寿命を短くするから、そして、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の治療をすることで、死亡率を20〜40%も低下させることができるからです(※3)。

さらに、脳梗塞や心筋梗塞になってしまうと寿命が短くなるばかりでなく、生活が制限され治療にかかるコストが極端に高くなります。それゆえ、コレステロール高値を指摘され続ける場合は早めに治療を行う必要があります(※4)

■パターン2:もう薬を飲んでいて、いまは正常値なので安心です」

薬を飲んでいるという方も、自分のコレステロール値はしっかり管理できていますか?

コレステロール値は、それぞれの患者さんの既往歴や性別、年齢、喫煙、血圧などによって、目指すべき値が異なります。例えば、心筋梗塞や狭心症を経験した患者さんは、再発抑制という観点から、LDLコレステロールを100㎎/dL未満に管理することが重要になります。だから「自分が目指すべき血中コレステロール値はどれくらいなのか?」ということをご自身で認識し、中途半端なコントロールにならないように注意しましょう。

また、心血管病のリスクはコレステロールだけでなく、他のメタボなどに起因することがわかっています(※3)。それゆえ、たとえコレステロール値が正常範囲内であっても、心血管病での死亡リスクを低下させるためには食事療法や運動療法を行うべきです。これは短期的な効果を期待するというよりも、長期的に健全な生活を営むためです(※5)

■パターン3: 「私のコレステロール値、薬を増やせば減りますか?」

なかなかコレステロール値が下がらない患者さんがいらっしゃいます。その原因としては、生活習慣の乱れの他に、遺伝子異常が考えられます(※6)。そのような患者さんは、薬を最大量飲んでもコレステロール値が下がりきらないことがあります。

脂質代謝異常症に一般的に使用される薬(スタチン)には「6%ルール」という現象があり、倍量に増量しても効果は6%しか増加しないのです(※5)。なかなか下がらないのであれば、複数の薬を組み合わせて内服したり、新しい選択肢として注射薬などが手に入るようになっていますので、早めに脂質代謝異常を専門とする医師の診察を受けることをオススメします。

以上、コレステロール治療についての誤った知識と正しい知識について解説しました。若い時から長期にLDLコレステロールを低く保っていれば、死亡率や生活習慣病発症も減少させられることは明らかです。コレステロールに対する正しい知識を持ち、積極的に治療に参加する気持ちを持ってください。

もちろん、食事療法や運動療法は長期的に継続する必要があり、治療のモチベーションを保つためにも、正しい知識による自発的な改善が極めて重要です。

【参考文献】
1.Brown
 G. N Engl J Med 1976:294;1386-90.
2.Endo A, et al. FEBS Lett 1976:72;323-6.
3.Lancet 2010:376;1670-81.
4.Lancet 1994:344;1383-9.
5.寺本. 日医大医会誌 2017:13:199-204
6.Abifadel M, et al. Nat Genet 2003:34;154-6.

文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。

 

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