写真・文/柳澤史樹
ブーム、というよりすでにカルチャーとして定着した感のある「日本酒」。そもそも日本酒は古来より飲まれ続けてきた「ジャパニーズ・オリジナル」ですから、ブームというのも変な話ではありますが、今日は、そんな日本酒をこよなく愛し、その粋なあそび方を実践、啓蒙している達人に、日本酒を楽しむ基本について伺ってみましょう。
今回お話を伺ったのは、「酒器道楽」代表の佐々木達郎さん。元は異業界でのお仕事をされていたそうですが、若い頃から大好きで勉強してきた“お酒”を生業にしたいと、酒器の販売を手がける「酒器道楽」を2003年にオープン。
現在それと並行して、日本酒を楽しむイベントやワークショップを主宰、全国を飛び回りながら、東京・浅草寺近くで茨城の酒蔵が経営する日本酒文化専門店「窖(あなぐら)」の日本酒アドバイザーとしても活躍中という、まさに日本酒の「達」人です。
「達さん」「達つぁん」の愛称で、各地の日本酒ファンに親しまれている達人・佐々木さんが教えてくれた日本酒のあそび方とはどんなものなのでしょうか?
日本酒を楽しむための三要素として「器」「感じ方」「たしなみ」があると佐々木さんは言います。そして、それぞれについてのポイントを、自身の体験を通じてまとめた独自メソッドを「七五三」と称しています。
「日本は昔からこの七五三という韻が、いちばんしっくりくるようです」と語る佐々木さんに、その勘所について教えていただきました。いったい「七五三」とは、何を意味する数字なのでしょう?
■まずは器の「三調子」をチェック
まずは日本酒を味わう上で大事なパートナーである器、ぐい呑みの選び方について、佐々木さんは「形・色・肌触りの“三調子”が大事」といいます。そして「持って伝わることが9割」とも。
「器にしても料理にしても、作家の思いは手を通じて伝わるものです。それは手を通さねば本当の深みを知ることができないということでもあります」
まさにその通り。まずは気になったぐい呑みを、作家へのリスペクトとともに両手で包み込むように丁寧に手に取り、直感的なインスピレーションを大事にしてみてください。
■「五感」で感じる日本酒のたしなみ
さて、器が決まったら、つぎは日本酒をたしなむために必要な「五感」についてです。それは、
(1)「視感(見ることでわかる魅力の一端)」
(2)「触感(感性を刺激する肌触の瞬間)」
(3)「聴感(場を作り出す音の妙味)」
(4)「香感(香りを探る心地よさ)」
(5)「味感(舌で味わう深みと発見)」
の5つ。この5つの感覚を駆使することで、単にお酒を飲むという行為が言葉とつながり、酒と器、料理との三位一体を存分に楽しめるのだそうです。
■粋を楽しむための「七訓」
そして最後は、日本酒を楽しむための七つの教え「七訓」。今度は感じるより心がける、という心理的なニュアンスが含まれていますので、注釈的にコメントを追加しつつご紹介します。
(1)「出会いの機会を逃さぬこと」
お酒の席は出会いの席。お酒も器も、そして人も、その機会をこそ大事にしなければならない。
(2)「手数をかける悦楽を知ること」
器の手入れはもちろん、その場を演出する手間を楽しむことが大事である。
(3)「乙な器使いを得手とすること」
飲み方にも秘訣あり。ぐい呑みは人差し指を使わず親指と中指で持つことで、余計な力も入らず、しかも美しく見える。これも「粋」を演出する大事な要素。
(4)「よき水を忘れぬこと」
日本酒ではチェイサーと言わず「和らぎ水」というのだそう。アルコールの吸収をおだやかにし、ゆったり飲むことができる。
(5)「自らを心得過ぎぬこと」
飲みすぎず、楽しいお酒を飲もう。
(6)「会話の大事に思い至ること」
人との会話で、その言葉のなかにある思いを噛み締めながら飲む。
(7)「縁(えにし)の酒を大いに楽しむこと」
ビールやウイスキーとは異なり、日本酒は「注ぎあう」文化。人と人とを結びつけるのが日本酒なのだから、その縁(えにし)を十分に楽しむべし。
以上が、佐々木さんが考える「七訓」です。
おわかりになりましたでしょうか。この「三調子」「五感」「七訓」を合わせたのが「七五三」というわけです。
* * *
さて、この日本酒を楽しむための基本となる「七五三」メソッドのことを佐々木さんから聞いて、言われなくてもなんとなく感じていたものも、こうして整理して見てみると改めてその深さがわかるなと実感しました。
とはいえ、この枠組みはあくまでも入り口。日本酒の世界は、もっともっと奥が深いものですし、なにより実際に飲んで食べて話して楽しむことこそが大事だと佐々木さんは考えます。そこで佐々木さんは、この七五三をはじめ、器や日本酒の選び方を実際に体感できるイベントやワークショップを主宰されているのです。
イベントでは、着物を完璧に着こなしてエスコートされる佐々木さんと「粋」に日本酒を遊べます。日本酒をさらに深く楽しんでみたいという方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。詳細は以下のFacebookページをご覧下さい。
◎酒器道楽 https://www.facebook.com/drinkstyle
◎日本酒文化専門店『窖(あなぐら)』 http://isokura.jp/anagura/
写真・文/柳澤史樹
フリーライター/ 自分史アドバイザー。歴史を楽しむ情報サイトや企業ファンサイトのマネージメント、ビジネスコンセプトやコピーの執筆、多数の著名人取材などの他、現在は一般社団法人 自分史活用推進協議会認定 自分史活用アドバイザーとして、個人の軌跡を残す「自分史」を活動の軸とする。2016年暮れ、地元横浜から相模原市緑区へ引越し、農的暮らしと執筆生活の両立へシフトチェンジ中。