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日本全国には大小1500の酒蔵があるといわれています。しかも、ひとつの酒蔵で醸(かも)すお酒は種類がいくつもあるので、自分好みの銘柄に巡り会うのは至難のわざです。

そこで、「美味しいお酒のある生活」を提唱し、感動と発見のあるお酒の飲み方を提案している大阪・高槻市の酒販店『白菊屋』店長・藤本一路さんに、各地の蔵元を訪ね歩いて出会った有名無名の日本酒の中から、季節に合ったおすすめの1本を選んでもらいました。

【今宵の一献】玉泉堂酒造『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』

玉泉堂酒造 『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』500ml 1080円(税込)

玉泉堂酒造 『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』500ml 1080円(税込)

今宵のお勧めの一献は、スパークリングな日本酒です。季節は夏。となれば「ビール!」と言いたいところを抑えて、ぜひにもお試しいただきたいお酒です。

岐阜県の西部に位置する養老郡養老町。ここは日本の滝百選・名水百選にも選定されている養老の滝にまつわる説話、涌き流れる水がお酒に変わったという「養老孝子(ようろうこうし)伝説」で有名な土地柄です。

そんな説話伝承の地に代を重ねる老舗の蔵元が「玉泉堂酒造(ぎょくせんどうしゅぞう)」です。その銘酒『醴泉(れいせん)』のシリーズから『純米吟醸活性にごり酒』を紹介しますが、その前に、件(くだん)の養老孝子伝説とはどんな話だったのでしょうか。

玉泉堂酒造の本社前

玉泉堂酒造の本社前

ときは奈良朝。女帝・元正天皇(げんしょうてんのう)の御代(みよ)のこと。美濃国に貧しい暮らしながら、年老いた父への孝養をなによりも大事にする男がおりました。ある日、山に薪(たきぎ)をとりに行った際、男は石の中から酒が涌き流れ落ちているのを発見します。なにより酒が大好きな老父のために喜んだ男は、日々、この美酒を汲んで帰っては、あくまで孝養を尽くしたのです。

水が酒に変わった不思議を伝え聞いた元正天皇は、老いた父に孝養をつくす男への天神地祇(てんじんちぎ)の功徳だと感じ入り、年号をそれまでの「霊亀(れいき)」から「養老」へと改元。そして、酒が流れ出るところは「養老の滝」と呼ばれるようになったという伝承説話です。

この伝承譚が文献に登場するのは鎌倉中期に編まれた教訓説話集『十訓抄(じゅっきんしょう)』が最初らしいのですが、さて――。

豊富な地下水に恵まれた養老伝説の地で、酒づくりに勤(いそ)しむ「玉泉堂酒造」は文化3年(1806)の創業から8代210年続く蔵元です。

その銘酒に冠された「醴泉」の名は、中国は唐の第2代皇帝の太宗(たいそう)の挿話に因(ちな)んだもの。貞観6(632)年、太宗が避暑に出かけた夏の宮殿「九成宮」の一角に甘い味のする水“醴泉”が湧出。それを記念して、そこに「九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんのめい)」と書かせた石碑を立てたといいます。余談ながら、その文字は高名な書家・欧陽詢(おうようじゅん)の筆になるもので、書の世界では「楷書(かいしょ)」のお手本、その理想形といわれているものだそうです。

玉泉堂酒造では、とくに昭和50年代後半から、求める酒の味を表現するため、手造り・小仕込みの少量生産に徹して、その理想を追求し続けています。

造りの現場は、社員杜氏の後藤高昭(ごとうたかあき)さんから、若い安福雅成(やすふく・まさなり)さんへと引き継がれています。

仕込み水は養老山系を源とする清冽な伏流水。蔵の地下から涌き出る、その水の性質はカルシウム・マグネシウムなどのミネラル成分が40ppm以下という“超軟水”です。その水が醸すお酒は、きわめてやわらかな味わい。それが玉泉堂酒造がつくるお酒の共通分母といっていいでしょうか。

蒸し米受け。

蒸し米受け。蒸した酒米を放冷(熱い蒸米を冷ます事)ネットに受けている。

いま、玉泉堂酒造が手掛けているのは、一般流通酒『美濃菊(みのぎく)』と限定流通酒『醴泉(れいせん)』の2本立て。醴泉シリーズには「山田錦」と「雄山錦(おやまにしき)」という2種類の酒米が使われています。

蔵主の山田敦(やまだ・あつし)さんは、とりわけ酒米「山田錦」に非常に強い思い入れを持っています。ひとくちに酒米の王様「山田錦」と言っても、産地などによって出来映えは様々で、一俵あたりの価格もピンキリです。

発酵のようす。

旺盛に発酵中のモロミタンク。

なかでも、最上級とされる「特A」クラスの山田錦の産地として知られるのが兵庫県加東市東条町ですが――最高級の東条産山田錦で最高の酒を醸す。そうした志に燃える蔵元12社が集まり、1994年には「フロンティア東条12」という団体を結成していますが、そこに玉泉堂酒造も名を連ねています。

抜け掛け。

「抜け掛け」と呼ばれる、手間の掛かる蒸しの作業。

瓶燗火入れ。

瓶火入れ作業場で説明する前杜氏・後藤氏。

瓶燗状況。

瓶燗状況。

その東条産の山田錦で醸す高品質のお酒が『醴泉』のシリーズです。

もうひとつ、醴泉シリーズに使われる酒米は、富山県が開発した「雄山錦(おやまにしき)」です。これは「ひだほまれ」と「秋田酒33号」の交配によって1997年に誕生した酒米で、2001年に品種登録されました。

この雄山錦は米粒じたいが大きく、上質な酒造りに欠かせない心白(しんぱく=米の中心にある白濁した部分)の発生率が高いこと、かつ雑味のもとになる米の外側を削るための高精白を行っても米が割れにくい、という特性を持っていて、吟醸酒づくりには最適なお米です。

今回ご紹介する『醴泉(れいせん)純米吟醸活性にごり酒』の酒米には、この「雄山錦」が使われています。

近年は炭酸ガスを注入した低アルコールで甘酸っぱいタイプのお酒もよく見かけるようになりましたが、玉泉堂酒造のスパークリングな日本酒『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』は、やや辛口です。

純米吟醸の醪(もろみ)を粗濾過(ろか)することで、少し濁った状態です。熱処理もしませんので、酵母(こうぼ)がまだ生きている活性タイプの日本酒になります。それによって、瓶(びん)内で二次発酵が進みますから、自然のキメ細かい炭酸ガスがお酒に溶け込んでいます。

『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』は、飲めるまでに少々、時間を必要とします。つまり、二次発酵によって瓶内のガス圧がかなり高まっていますので、スクリューキャップを回してパキッと開封した瞬間、瓶から泡立ったお酒がシュワー!と勢いよく噴き出してきます。そのつど、噴き出しそうになったら、スクリューキャップを締めて、いったん落ち着かせます。

この作業を約5分ほど繰り返して、ガス抜きをしていただくことで、スムーズに開封できるようになります。決して「にごり酒」だからといって、開封前に瓶を振らないこと。うっかり、そんな所作をしようものなら、間違いなく大変な目に遭いますので、ご注意を。念のため、畳などの上での開封は避けて、台所のシンクのなかで行うことをお勧めします。

さて、『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』を味わってみましょう。

いつもの『堂島・雪花菜(どうじま・きらず』の御主人・間瀬達郎さんが腕をふるってくれた料理は「鰻(うなぎ)のけんちん蒸し」。豆腐を裏漉しにして、ゴボウ、ニンジン、新山椒を入れて卵でつなぎ、一度蒲焼にした鰻を巻いて蒸しあげています。そこに塩ゆでして千切りにしたキヌサヤを乗せ、出汁(だし)で溶いた山葵(わさび)をかけています。

いかにも夏に嬉しい一品です。

れいせん5

キーンと冷やした醴泉と温かい鰻のけんちん蒸し。

もちろん「鰻」は、この夏の土用の丑の日(7月30日)を意識してのこと。加えて、夏場はつい冷たいものばかりを摂(と)りがちで、胃が疲れてくる時節ですから“温かい料理”をあえて選んだということです。

本来、「温かい料理には、温かいお酒」の組み合わせのほうが、しっくりくることも多いのですが、ここでは溶き山葵の冷涼な爽やかさが、冷たいお酒との絶妙な橋渡しになっているのを感じます。

『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』は、華やかなタイプの吟醸香を放つお酒ではありません。香りはあくまで穏やかです。そして、米のもつ旨みをきれいに感じさせるタイプのお酒です。また、にごり酒のミルキーさが、鰻の蒲焼やゴボウとも相性がよく、飲み飽きしない気品ある味わいのお酒です。

胃も心も癒しを体感、満たされたひとときが愉しめました。

いま一度、養老伝説にもどってみれば――じつは元正天皇の御代には、お酒ではなく、若返りの薬効をもつ水が涌き出ていた、という記述がまず先にあったようです。孝行息子の話もまだ出てきません。それが後代になって「養老孝子伝説」へと昇華していったのです。

もっとも、養老に改元された1カ月後の『続日本記』には、養老の水で美酒を醸した、という一文が記されてもいるそうですよ。
養老伝説の地で育まれる美酒『醴泉 純米吟醸活性にごり酒』をキンキンに冷やして、口中にはじける爽快感を愉しむことから、この夏のスタートを切ってみるのはいかがでしょうか。

トリミング/藤本さんIMG_0403

文/藤本一路(ふじもと・いちろ)
酒販店『白菊屋』(大阪高槻市)取締役店長。日本酒・本格焼酎を軸にワインからベルギービールまでを厳選吟味。飲食店にはお酒のメニューのみならず、食材・器・インテリアまでの相談に応じて情報提供を行なっている。

■白菊屋
住所/大阪府高槻市柳川町2-3-2
TEL/072-696-0739
営業時間/9時~20時
定休日/水曜
http://shiragikuya.com/

トリミング/間瀬さん雪花菜7
間瀬達郎(ませ・たつろう)
大阪『堂島雪花菜』店主。高級料亭や東京・銀座の寿司店での修業を経て独立。開店10周年を迎えた『堂島雪花菜』は、自慢の料理と吟味したお酒が愉しめる店として評判が高い。

■堂島雪花菜(どうじまきらず)
住所/大阪市北区堂島3-2-8
TEL/06-6450-0203
営業時間/11時30分~14時、17時30分~22時
定休日/日曜
アクセス/地下鉄四ツ橋線西梅田駅から徒歩約7分

構成/佐藤俊一

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