「青春18きっぷ」だけを使って行ける日本縦断の大旅行を企てた、58歳の鉄道カメラマン川井聡さん。南九州の枕崎駅から、北海道の最北端・稚内駅まで、列車を乗り継いで行く日本縦断3233.6kmの9泊10日の旅が始まった。
8日目は青森県は五能線の途中駅、ウェスパ椿山駅を出発、北海道、函館駅を目指す。
『サライ』8月号では「青春18きっぷ」の旅を大特集! 川井さんの旅の全行程も載っています。
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https://serai.jp/news/216861
前日の行程変更のツケで、今日の乗車は始発列車。宿では送迎もしてくれるという。チェックインの際に申し込んでおいたのだが、フロントの回りにはバスに乗る人の姿がない。乗車するのは自分一人だけらしい。
考えてみれば、こんなすばらしい景色の温泉宿で、朝一番に出る客が居る方がオカシイのだ。我が行程のタイトさを今さらながら気づかされる。
通常あさイチのバスは、最寄りの艫作(へなし)駅までの送りだ。だがウェスパ椿山~艫作の一駅が抜けてしまうのもなんとなくシャクな気持ちなので、歩いてみようかとカウンターで相談したら、「あ、じゃぁ送ってあげますよ」とありがたい返事。こういうご厚意には、ずんずん甘えさせていただいてしまう。
駅へ向かうバスのルートは上り坂の連続で、もし歩いていたら確実に乗り遅れてただろうと実感する。宿のご厚意にあらためて感謝。
《8日目》ウェスパ椿山駅~弘前駅
旅は8日目。日本海を眺めて進む海岸紀行も3日目の大詰めだ。まずは「ウェスパ椿山」駅から下り始発列車に乗って、弘前駅を目指す。
宿の車に送られて、昨日下車した「ウェスパ椿山」駅に到着。隣の艫作駅までひと区間だけど、乗車区間が途切れなかったのはちょっと嬉しい。
今日も快晴。これもかなり嬉しい。
昨日と異なり、今日は各駅停車だ。形式は「くまげら」と同じキハ40系。今ではクラシックな車両に属するようになったが、五能線はこれが来るのがとても嬉しい。
いろいろと嬉しがっているうちに、ウェスパ椿山から一駅で、艫作駅。日本最強クラスの難読駅だ。五能線はこの先も奇岩と美景、絶景と難読駅が待っている。
深浦駅で、上りの普通列車と交換。昨日の「リゾートしらかみ」は、ここで向かい側の列車にお互いの乗客が乗り換えたのである。
深浦駅付近から、海岸線が一気に近くなる。小さな入り江を巻いて走った後、行合崎の海岸線にさしかかる。途中下車して一日ここで行き交う列車を撮影していたいほど、光も海も美しい。
この10日間の旅は「乗り鉄に徹する」と決めているから、基本的なスケジュール変更はないのだが、今日みたいな快晴の日は、ちと辛い。サイコーの風景をサイコーの景色で撮れるとわかっていながら、ただひたすら北を目指すのだ。
冬ならそのまま演歌の主人公である。でも、この時期だといったい何なんだろう? 「列車に乗っているだけの簡単なお仕事です」ってところかな。
艫作と並ぶ難読駅が連なるのも、五能線の特徴だ。関東にも「日暮里」や「御徒町」が、関西には「放出」や「十三」といった難読駅名があるが、そこに住んで馴染んでしまえばあえて難読駅だと意識することもない。「札幌」や「釧路」なんて、地名を知らなきゃほぼ間違いなく間違って読んでしまう(ややこしいけど)駅名だ。
こういう地方ローカル線の難読駅を見ると、ちょっとほっとしてしまう。それはその駅名や地名がまだ遠くの人の目にさらされていないが故の素朴さを感じるからかもしれない。
一つ一つの難読駅に丁寧に停まっていく普通列車。でもそれを眺める人は少ない。その分新鮮な気持ちで駅名や海岸線の景色とともに、車内も「日常の五能線」を堪能できる。車内は国鉄時代のスタンダードともいえるブルーのモケットシート。いまや希少品ともいえる内装だ。
1987(昭和62)年に、常設駅となった千畳敷駅。しかし歴史は古く、戦後間もない1954(昭和29)年に仮停留所として設置された。駅前には名前の由来となった千畳敷海岸がある。
一部の「リゾートしらかみ」は長時間停車をして海岸に出られるが、普通列車は短い停車をするだけで通り過ぎる。
下りの五能線は、進行方向左側が特等席。観光客も地元の人もみんなよく知っている。
鰺ヶ沢では30分ほどの停車。飯山線同様こうした途中停車はありがたい。この時間を利用して町に出る。ラーメン屋さんはなかったが、鰺ヶ沢のキャンペーン犬(?)「わさお」がでっかい看板になっていた。
鰺ヶ沢駅で、一両増結。各地で単行列車が増えているだけに、国鉄形気動車の三連は珍しい存在だろう。
五所川原で「リゾートしらかみ・橅(ブナ)」と交換。
白神山地から離れると、岩木山が現れる。田園風景にそびえ立つ津軽富士。日本のこういう風景には白い軽トラが実によく似合う。
まもなく弘前駅に到着だ。