文・写真/鈴木拓也
鎌倉は二階堂にある杉本寺の開山は734年、鎌倉の地で最も古くからある寺である。光明皇后(聖武天皇の后)が、夢の中に現れた観音様のお告げを受け、行基が彫った観音像を安置していた場所に本堂を据えたのが、始まりだという。
坂東三十三観音霊場と鎌倉三十三観音霊場の第一番札所としても知られ、多くの参拝者を集める。
石段を上ったところにある仁王門には、運慶の作と伝えられる一対の仁王像がにらみをきかせ、その先は苔むす石段に続いている。
石段は摩耗が激しく危険なため、現在は通行止めとなっており、左側の石段を迂回して本堂を目指すことになる。「十一面杉本観音」の白旗が周囲をとりまく本堂は、なるほど鎌倉最古だけあって、ふるぶるしく趣がある。
本堂で祀られているのは、8~10世紀にかけ順次造立された3体の十一面観音像。1189年、隣家で生じた火災が本堂に延焼したときに、3体の観音像が近くの杉の木の下に避難したという言い伝えがある。それ以来、「杉の本の観音」と呼ばれるようになった。
また、乗馬したまま寺の前を通行しようとすると、落馬する者が続出したことから「下馬観音」とも呼ばれた。建長寺開山の蘭渓道隆が祈願し、観音像を袈裟で覆ったところ落馬する者がいなくなったというが、この故事から「覆面観音」とも呼ばれた。
これらは秘仏とされ遠くからの拝観になるが、本堂内にはほかに運慶作とされる御前立十一面観音像や地蔵菩薩像などが安置されている。
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杉本寺から鶴岡八幡宮の方向へ、しばらく下ったところに見える三叉路に面して、杉本寺の親寺の宝戒寺がある。
ここはかつて、執権北条氏の代々の屋敷があったが、新田義貞の軍勢によって北条氏は滅ぼされ、屋敷も焼かれた。その後、北条氏の霊を慰めるため、そして国宝的人材を養成する道場として、後醍醐天皇の命により足利尊氏が建立したいきさつがある。
本堂は、1538年の火災で焼失したが、江戸時代に入り再興し今に至る。鎌倉二十四地蔵尊の第一番札所、鎌倉三十三観音霊場の第二番札所、鎌倉七福神の一として、秘仏を含め何体もの仏像を祀る。
本堂とは別に、聖徳太子を祀る聖徳太子堂など3堂宇をかまえ、年中行事ともなると多くの人が訪れる。
宝戒寺は、秋の彼岸の時分に、シロハギの花が境内一面に咲くことから、「萩寺」の愛称を持つ。シロハギ以外に植えられている花は百種あまりで、春夏秋冬を問わず何かしらの花が咲いている。いつ訪れても、心が和まされる名刹である。
【杉本寺】
住所:鎌倉市二階堂903
電話:0467-22-3463
公式サイト:http://sugimotodera.com/
拝観時間:8:00~16:30(16:15入山受付終了)
交通:鎌倉駅から5番バス乗り場で、「金沢八景駅」行き、「鎌倉霊園正門前(太刀洗)」行き、「ハイランド」行きバス乗車、「杉本観音」バス停下車徒歩約1分
【宝戒寺】
住所:鎌倉市小町3-5-22
電話:0467-22-5512
公式サイト:http://hokaiji.com/
拝観時間:8:00~16:30
交通:鎌倉駅から5番バス乗り場で、「金沢八景駅」行き、「鎌倉霊園正門前(太刀洗)」行き、「ハイランド」行きバス乗車、「大学前」バス停下車徒歩約2分
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。