古都鎌倉へ向かう横須賀線の車内は、相変わらず混雑しているが、鎌倉駅を降り立つ人の波は、若宮大路に出ると海へと向かって流れていく。一方、寺社境内はさすがに人影も薄くなる。寺社境内は夏の花に彩られ、人影の少ない静寂な寺庭を独り占めすることができる。(文・写真/原田 寛)

小堀遠州の作庭と伝えられる記主庭園を彩る古代ハス。

小堀遠州の作庭と伝えられる記主庭園を彩る古代ハス(光明寺)

■1:光明寺のハス(材木座)

奈良や京都では6月から咲きはじめるハスだが、鎌倉では7月も中旬を過ぎてから見頃を迎える。

夏の陽射しを避けて、まだ太陽が山陰に隠れている早朝7時、材木座の光明寺を訪れると、記主庭園の池泉に古代ハス(大賀ハス)が咲いている。

本堂と開山堂を結ぶ回廊に腰掛けて、ゆったりとした時間を過ごしていると、アジサイの季節の喧騒が嘘のような静寂に包まれる。さすがにこの時間だと、夏の暑さもそれほど感じられない。

光明寺
住所:神奈川県鎌倉市材木座6-17-19
電話:0467-22-0603
拝観時間:6:00〜17:00(冬期は7:00〜16:00)
拝観料:無料
アクセス:鎌倉駅東口から京急バス小坪経由逗子行き、バス停光明寺から徒歩すぐ

 

■2:鶴岡八幡宮のハス(雪ノ下)

鎌倉では光明寺と双璧のハスの名所、鶴岡八幡宮の源平池でも、この季節には夜明け前から人が集まりだす。

ハスは早朝の開花時に「ポン」という音を発するという俗説を信じているわけでもないのに、つい開花時間に訪れたくなるのが人情なのかもしれない。

源平池には源氏と平家の旗色を象徴する紅白のハスが咲く。

源平池には源氏と平家の旗色を象徴する紅白のハスが咲く(鶴岡八幡宮)

ハスの花姿は開花時が一番美しいので、いずれにせよ真夏の花散策はまだ涼しい朝食前に済ませておくのが賢明のようである。

鶴岡八幡宮
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1−31
電話:0467-22-03151
拝観時間:特になし
拝観料:無料
アクセス:JR鎌倉駅東口から徒歩10分

 

■3:建長寺と本覚寺のハス(北鎌倉/小町)

光明寺と鶴岡八幡宮のハスが露地植えなのに対して、建長寺や本覚寺のハスは鉢植。風情がないように思われがちだが、ひと鉢ごとに種類が違うので、開花時期に微妙なズレがあるため、長い期間楽しめるのはありがたい。

入れ替わり咲くため群生という風景は望めない一方で、時期によって見られる種類が違うし、鉢の置かれた場所によって背景も自在に選択できるので、写真家にとっては逆に撮影しやすい被写体である。

凛とした禅寺の境内を彩る建長寺のハス。

凛とした禅寺の境内を彩る建長寺のハス。

特徴のある夷堂の屋根を背景に咲く本覚寺のハス。

特徴のある夷堂の屋根を背景に咲く本覚寺のハス。

建長寺
住所:神奈川県鎌倉市山ノ内8
電話:0743-53-1445
拝観時間:8:30〜16:30
拝観料:300円
アクセス:JR北鎌倉駅から徒歩15分

本覚寺
住所:神奈川県鎌倉市小町1-12-12
電話:0467-22-0490
拝観時間:特になし
拝観料:無料
アクセス:JR鎌倉駅東口から5徒歩分

 

■4:妙本寺のノウゼンカズラ(大町)

鎌倉の夏を代表するもう一つの花にノウゼンカズラがある。この花の代表格は比企ヶ谷の妙本寺。

二天門をくぐるとすぐ、左右に一対植えられている。夏の陽射しにも負けない鮮やかなオレンジ色の花で、雨や風が強いと落花するのが特徴なので落花を狙って雨上がりの朝に撮影に向かうひとも多い。

また、朝の勤行に向かう僧侶を入れて撮影しようと、早朝からカメラを片手にした人が毎日のように集まってくるのもこの寺の特徴だ。やはり、夏の散策、撮影は早朝がポイントのようである。

ノウゼンカズラの下を妙本寺祖師堂へ向かう僧侶たち。

ノウゼンカズラの下を妙本寺祖師堂へ向かう僧侶たち。

妙本寺
住所:神奈川県鎌倉市大町1-15-1
電話:0467-22-0777
拝観時間:9:00〜17:00
拝観料:100円
アクセス:JR鎌倉駅東口から徒歩9分

 

■5:海蔵寺のノウゼンカズラ(扇ヶ谷)

ノウゼンカズラは見た目の印象が洋花のようだが中国原産で平安時代頃日本に伝わったというから、寺社境内にあっても不自然ではないのだが、関西では奈良・当麻寺や弘仁寺が思い浮かぶ程度で、みかる機会は驚くほど少ない。

理由は不明なのだが、何故か鎌倉では、扇ヶ谷の海蔵寺や長谷の光則寺、妙本寺近くの本覚寺など、この花が植えられている寺が多い。

天に向かって立ち上るように咲く海蔵寺のノウゼンカズラ。

天に向かって立ち上るように咲く海蔵寺のノウゼンカズラ。

海蔵寺
住所:神奈川県鎌倉市扇ヶ谷4-18-8
電話:0467-22-3175
拝観時間:9:30〜16:00
拝観料:境内志納(十六ノ井拝観100円)

 

■おまけ:鎌倉のソウルフード『天金』の鎌倉丼

鎌倉で時代を超えて受け継がれてきた伝統食といえば、まずは鎌倉丼である。この味を守り続けてきたのが、明治36年創業という老舗・天金。

大ぶりの海老の天ぷら2本を玉子でとじたシンプルな丼だが、名物になるにはそれなりの理由がある。江戸時代、鎌倉の海では伊勢海老が大量に獲れ、関東では江戸時代まで「鎌倉海老」と呼ばれていた。これを丼に仕立てたものが本来の鎌倉丼。戦後まもない頃には、祭りなどハレの日には鎌倉丼が食卓に上っていたという。蓋の両側から鎌倉海老の頭と尻尾がのぞくその姿は、想像しただけでも豪華だったと思われる。

時代は移って、今は漁獲量の関係から他の海老を使用するようになっているが、伝統は受け継がれている。数少ない鎌倉のソウルフードとして、一度は食してみる価値がある。天金では飯にもこだわっていて、魚沼産コシヒカリにアルカリイオン水を使い小人数分ずつ釜で炊きあげ、保温ジャーは一切使っていない。

鎌倉丼(1260円)の他にも親子丼(945円)や天丼(1365円)かつ丼(1155円)や天ぷらご飯(1680円)などの定食類も豊富。

鎌倉丼(1260円)の他にも親子丼(945円)や天丼(1365円)かつ丼(1155円)や天ぷらご飯(1680円)などの定食類も豊富。

鶴岡八幡宮の目の前、若宮大路に面した創業100年の老舗。

鶴岡八幡宮の目の前、若宮大路に面した創業100年の老舗。

天金
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下1-8-33
TEL:0467-22-1717
営業時間:11:00〜15:00(土・日・祝は〜16:00)
定休日:水曜
アクセス:JR鎌倉駅東口から徒歩8分

photo
文・写真/原田  寛(はらだ・ひろし)
1948年 東京生まれ。1971年 早稲田大学法学部卒業。鎌倉を拠点に古都や歴史ある町並みを撮り続け、鎌倉の歴史と文化・自然の撮影をライフワークとしている。鎌倉風景写真講座を主宰し後進の指導にもあたる。作品集は『鎌倉』『鎌倉Ⅱ』(ともに求龍堂)『四季鎌倉』(神奈川新聞社)『花の鎌倉』(グラフィック社)など多数。

 

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