取材・文/池田充枝
蒔絵(まきえ)は、漆工芸の装飾法の一種で、器物の表面に漆で文様を描き、金、銀、錫(すず)などの粉や色粉を蒔いて固め磨いたものをいいます。
平安時代の『竹取物語』に現れるのが最古といわれますが、それより前の奈良時代に発達し、平安時代に隆盛をみました。平安中期以降、貴族社会の間に流行し、寺院建築、家具調度、文房具などの装飾に用いられ、時代が下がると武家や庶民の間でも広く愛用されるようになりました。
蒔絵の技法は「研出(とぎだし)蒔絵」「平(ひら)蒔絵」「高(たか)蒔絵」の3つに大別されますが、粉の種類によっても「消粉(けしふん)蒔絵」「平極(ひらぎめ)蒔絵」「丸粉(本)蒔絵」と区別があります。
さらに粉の蒔き方の違いによる塵地、平目地、金粉を蒔く梨地、沃懸地(いかけじ)などの技法や、螺鈿(らでん)、象嵌(ぞうがん)、平文(ひょうもん)といった装飾技法も併用されて、複雑な装飾文様が作られます。
そんな、世界に誇る日本独自の美術工芸品・蒔絵の技法の細部に迫れる展覧会「MAKI-E 蒔絵・美の万華鏡展-単眼鏡で覗く未体験の深層美-」が、東京富士美術館で開かれています(~2017年7月2日まで)。本展では、近年の新収蔵作品初公開を含め、同館が所蔵する約500点の蒔絵工芸作品から約120点を厳選して展観されています。
また本展では、蒔絵の細部を存分に観察できるよう、アート鑑賞の世界で鑑賞用の道具として知られる単眼鏡を活用して、蒔絵や螺鈿の繊細な美を鑑賞できるようになっています。
本展の見どころを、東京富士美術館の学芸課係長、鴨木年泰さんにうかがいました。
「本展では蒔絵の魅力を味わってもらうため、単眼鏡を単なる外付けの鑑賞ツールではなく、展示構成の基本要素として組み入れました。蒔絵の様々な技法と見どころを鑑賞者が単眼鏡で見つけ、楽しんでいただくことを目指しました。
さらに、単眼鏡のレンズで細部を見る鑑賞に加え、美術館の企画展としては国内初となるヘッドマウントディスプレイを採用し、最新のバーチャルリアリティ(仮想現実)技術によって硯箱の内側から鑑賞できるというユニークな展示体験を楽しんでいただけます。硯箱に隠されたデザインの秘密もわかりやすく鑑賞いただけるように工夫しました。
さらに本展の開催にあたり、鶴見大学文学部文化財学科の小池富雄教授を中心とした専門家のご協力をいただいて行った約500点の所蔵蒔絵作品の調査において、なんと所蔵作品の一つが天璋院篤姫の婚礼調度の一部であることが新たにわかりました。篤姫の婚礼調度はこれまで国内外で3件が確認されており、このたび判明した当館所蔵作品は現存が確認された4件目の貴重な作品となります。所蔵作品の調査研究の成果が企画展に結びつき、このたび初公開できたことを嬉しく思っています。
本展では出品作品122件の蒔絵作品の内、約半数にあたる57件が初公開となります。美術作品を鑑賞することの楽しさを本展出品の蒔絵工芸作品を通して感じていただけたら幸いです」
単眼鏡とバーチャルリアリティで知る蒔絵の技法は、たいへん面白い観賞体験です。ぜひ会場でご体験ください。
【今日の展覧会】
『MAKI-E 蒔絵・美の万華鏡展-単眼鏡で覗く未体験の深層美-』
■会期:開催中~7月2日(日)
■会場:東京富士美術館
■住所:東京都八王子市谷野町492-1
■電話番号:042・691・4511
■公式サイト:http://www.fujibi.or.jp
■開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
■休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日火曜日が振替休館)
取材・文/池田充枝