取材・文/池田充枝
ヨーロッパで初めて磁器の焼成に成功した「マイセン磁器製作所」は、1710年にドイツの小さな街マイセンで開窯以来、300年を超える歴史の中で多くの魅力的な作品を生み出し、ヨーロッパ各国の磁器製造に大きな影響を与えてきました。
黄金期ともいえる18世紀には、原型制作師のヨハン・ヨアヒム・ケンドラーや絵付師のヨハン・グレゴリウス・ヘロルドが活躍し、現在も大切に受け継がれる独特の造形や色彩を作り上げました。
そして「フィギュリン」(figurine:人形)と称される磁器彫刻も生まれました。各時代の原型制作師が優れた能力を発揮し生み出した精巧なフィギュリンは、高い評価を得て、ロココ時代の宮廷で大流行しました。
産業化が進む19世紀に入ると、万国博覧会が各国を代表する磁器製作所の発表の場となりました。フランスのセーヴルなどヨーロッパの他の窯が新たな装飾技法を生み出す中で、マイセンはあえて手仕事にこだわり、過去の様式の復刻に力を注ぎました。そのため、19世紀に作られたフィギュリンは、マイセンを代表する彫刻家たちが活躍した18世紀当時の雰囲気をたたえています。
透き通るような純白の素地に、華やかに絵付けされたマイセンの磁器彫刻や実用器は、現代においても人々を魅了し続けています。
そんな19世紀のマイセン磁器の傑作が一堂に会す展覧会が、兵庫陶芸美術館で開かれています(~2017年8月27日まで)。小早川春信氏によって蒐集され、岐阜県現代陶芸美術館に寄贈された19世紀のマイセン人形をはじめとする約100点のコレクションによってその魅力に迫ります。
本展の見どころを、兵庫陶芸美術館学芸課の村上ふみさんにうかがいました。
「本展覧会の出品作品は、19世紀後半に製作された作品が大部分を占めます。その頃のマイセンは、他のヨーロッパ諸窯が新たな装飾技法を生み出し躍進するなか、あえて手仕事にこだわり、過去の様式の復刻に力を注ぎます。それらの作品は、マイセンの黄金期である18世紀の雰囲気をたたえ、かつ19世紀ならではの明るく鮮やかな色彩を特徴としています。
本展では、19世紀に製作された作品の中でも、可愛らしく、思わずハートがキュンとなるようなフィギュリン(磁器製人形)が多数出品されます。
フィギュリンは18世紀に宮廷で流行し、貴族の祝宴で食卓に並べられ、会話を盛り上げるものとして人気を博したほか、室内飾りとして鑑賞されました。寓意を秘めた男女や愛らしく表現された子どものフィギュリンは、原型が作られた時代の美術様式である、ロココや新古典主義の影響も感じられ、優雅で詩情あふれる世界を作り上げています。
そのほかにも、繊細かつ美しい細工が施された大壺や、総長5mにわたる豪華な18人分のセルヴィス(service:食器セット)をテーブルコーディネートとともにお楽しみいただけます」
ヨーロッパの美意識が横溢する19世紀のマイセン磁器の傑作の数々を、ぜひご堪能ください。
【展覧会情報】
『マイセンの美-いとしのフィギュリン、華麗なるセルヴィス-』
■会期:2017年6月10日(土)~8月27日(日)
■会場:兵庫陶芸美術館
http://www.mcart.jp
■住所:兵庫県篠山市今田町上立杭4
■電話番号:079-597-3961
■開館時間:10時から19時まで、7月~8月の金・土曜日は21時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日:月曜(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)
取材・文/池田充枝