今から約110年前、三越は百貨店としては日本で初めての美術展「光琳遺品展覧会」を開催した。この展覧会は江戸時代の三井家と尾形光琳との関わり、そして文化を伝えることに旺盛な意欲を持つ三越の挑戦だった。その三越で今年1月から「琳派名品展」が開催される。
三越と琳派の関わりは、呉服店・越後屋を営んだ三井家が、元禄文化を代表する画家・意匠家の尾形光琳らを支援した江戸時代にまで遡る。両者の縁は、日本が近代化の道を進む明治以降も続いた。
明治末期、三越(当時は三井呉服店)は欧米の百貨店に範を取り、ガラス張りの陳列棚に商品を並べて新しい生活の具体的なあり方を提案するなど経営革新を進めた。
意匠部を創設し、市松模様などの着物、元禄櫛、元禄下駄など、様々な商品開発にも着手する。このとき尾形光琳ら琳派の担い手と三越との関わりに着目し、光琳模様を打ち出した。光琳模様とは、光琳自身が手がけたかについては諸説あるものの、江戸時代から大衆に親しまれていた文様である。光琳らしい構図を取り入れた裾模様、梅、菊、波などの文様は、雛形本と呼ばれる見本帳として流布していて、これに由来する着物地は人々を魅了した。
折しも日露戦争後の戦勝景気、そして失われつつある江戸文化への憧れなど、様々な要因が重なり「元禄ブーム」を巻き起こした。
↑大正4年6月の「光琳遺品展覧会」の様子を伝えるPR誌『三越』(上写真は、その表紙)。歴史書『大日本史』を完成させた徳川圀順や、三菱財閥4代目の岩崎小弥太らの所蔵品が出品された。
↑明治37年に光琳風裾模様という題材で着物の柄を募り、その当選を伝えるPR誌『時好』(右写真は、その表紙)。三越では意匠部だけでなく一般公募を行なうことで、大衆の心を惹きつけていった。
■琳派展の原型を作った三越
この文化の発信に力を入れる三越は明治37年(1904)10月に、百貨店初の展覧会となる「光琳遺品展覧会」を開催する。その後も琳派の展覧会は繰り返し行なわれ、こうした催しは、その後、美に敏い趣味人に向け、美術・工芸品の陳列販売にも発展した。
このように世紀を跨いで琳派の魅力を伝えてきた三越が、1月21日から「琳派名品展」を開催する。東京・日本橋で作品を鑑賞し、琳派が享受されてきた歴史に思いを馳せてはいかがだろう。
琳派400年記念 ―箱根〝琳派〟の誕生―
岡田美術館所蔵 琳派名品展 〜知られざる名作初公開〜
会場:日本橋三越本店 新館7階ギャラリー
日時:1月21日(水)〜2月2日(月)
時間:10時〜19時(最終日は〜17時30分、入場は閉場の30分前まで)
休館:無休
料金:800円
主催:「岡田美術館所蔵 琳派名品展」実行委員会
共催:読売新聞社
後援:琳派400年記念祭委員会
出品協力:岡田美術館
企画協力:SOZOBUNKA.bis
●1月28日(水)14時から、岡田美術館館長の小林忠氏による講演会「琳派400年と岡田 美術館 琳派コレクション」を行ないます。この特別講演会と、「琳派名品展」を先着40名様にご招待します。詳細は、以下のウェブページをご覧ください。
■琳派名品展+特別講演会 ダブルご招待のご案内
https://serai.jp/news/entertainment/15102
琳派400年に触れる展覧会
琳派の創始者とされる書家・芸術家の本阿弥光悦が、京都洛北に芸術サロンともいうべき「光悦村」を開いたのが1615年(元和元年)。日本橋三越で開催される「琳派名品展」では、琳派の源流から、明治・大正・昭和に至る近代琳派まで400年の系譜を、岡田美術館(神奈川県)所蔵の40点余の絵画・工芸や、映像資料などを通じて紹介する。岡田美術館館長の小林忠氏による、知られざる琳派についての講演会も実施される。
↑尾形乾山作・光琳画 『銹絵白梅図角皿』 岡田美術館蔵
深さ約3cmの角皿に、垂れた枝の白梅が香るように描かれ、中央には明代の詩作手引書『円機活法』の詩の一部が引用されている。裏面には、兄・光琳の絵付であることを示す一文が乾山の豪快な筆致で見られる。
↑俵屋宗達筆 『明石図』(源氏物語図屛風断簡) 岡田美術館蔵
「琳派名品展」に出品される作品のひとつ。かつては八曲一隻の屛風に描かれていた『源氏物語』の一部で、光源氏が夜更けに明石君を訪ねる場面。金銀泥(絵の具の一種)や、切箔(細かくした箔)が用いられ、優美で緻密な表現が見られる。
■お問い合わせ
日本橋三越本店☎︎03・3241・3311(大代表)
http://mitsukoshi.mistore.jp/store/nihombashi/event/rimpa/index.html