「零響 -Absolute 0-」(新澤醸造店)
https://niizawa-brewery.co.jp/item/182/

日本酒業界に高級銘柄が次々と登場しています。従来の「親しみやすい酒」に加え、技術の粋を集めた、または深い時間を過ごした高級な日本酒が続々と登場しているのです。この背景には「日本酒は本来もっと価値が高いのではないか」という議論があります。

酒蔵が持つ最高の技術を駆使し、特別な環境で熟成された限定品や、特殊な製法で作られた希少な銘柄など、これまでにない付加価値を持つ日本酒が市場を賑わせています。また、酒蔵自体がトップブランドとして展開するもののほか、優れた日本酒だけを厳選してブランディングする会社(製造部門を持たない日本酒プロデュース組織)も増えており、高級日本酒市場は着実に拡大しています。

文/山内祐治

目次
日本酒はいくらから高いと言えるのか
注目すべき日本酒の高級銘柄
日本酒を高級プレゼントとして贈る際のポイント
日本酒の最高級品とその値段
めちゃくちゃうまい日本酒は高級品だけなのか
入手困難な日本酒の現実
「百光」という日本酒の評判
まとめ。多様化する日本酒の価値

日本酒はいくらから高いと言えるのか

日本酒の価格帯における「高級」の基準は、ここ数年で大きく変化しています。以前は四合瓶(720ml)で5000円を超えると高級酒と私は考えていましたが、現在ではその基準は約2倍に引き上がったと思います。

今日の感覚では、1万円を超える日本酒が高級酒と位置づけられるのではないでしょうか。これは高級酒のトップレンジが大幅に上昇したことで、価格帯全体が押し上げられた結果です。実際に、各酒蔵からは税込み1万円前後の商品が次々と市場投入され、さらに1万2000円、1万5000円といった価格帯の商品も珍しくなくなっています。

さらには四合瓶で2万円を超える銘柄も登場し、上級層を形成しています。このような価格帯の多層化により、日本酒愛好家にとっては選択肢が大幅に広がったと言えるでしょう。

注目すべき日本酒の高級銘柄

高級アイテムを含む日本酒銘柄の代表格として外せないのが、「獺祭」と「黒龍」です。「獺祭」では「その先へ」という銘柄が話題となり、フラッグシップである「二割三分」のさらに上を行く品質を追求しています。飲み比べることで、段階的に品質の違いを体験できる仕組みは、消費者にとって価値を実感しやすい優れた戦略です。

「無二」(黒龍酒造)

黒龍」からは「二左衛門」「石田屋」といった伝統的な高級酒に加え、2018年に「無二」という銘柄が登場しました。この商品の革新的な点は、入札制度にしたことです。実際に数十万円台という価格で落札・販売されたヴィンテージもあり、ワイン的なオークション文脈を日本酒に持ち込んだ象徴的な事例として知られています。従来の精米歩合による価値訴求やヴィンテージの概念に加えて、低温長期熟成と、その年の気候や米の出来栄えを重層的に評価、さらに全国の有力酒販店が入札で価格を決定するという画期的な手法を採用しています。

また、SAKE HUNDRED(サケハンドレッド)が手がける「百光」をはじめとする銘柄群も注目に値します。飲み方(温度・グラス)が提案され、ブランドの世界観を“正しく楽しめる体験”がデザインされているのです。様々な酒蔵と連携して高品質な日本酒を独自に開発、ラグジュアリーブランドとして展開する手法は、ハイエンドファッションブランドのような戦略を体現しています。

日本酒を高級プレゼントとして贈る際のポイント

日本酒を特別な方への贈り物として選ぶ際は、単に有名な銘柄を選ぶだけでなく、相手の方に紐づいた意味のあるお酒を選ぶことが大切です。

最も重要なのは、信頼できる相談相手を見つけることです。日本酒に力を入れている酒販店のスタッフは、贈る相手の属性や背景を聞いた上で、最適な銘柄を提案してくれます。はせがわ酒店やIMADEYAといった有名酒販店では、豊富な知識を持つスタッフが真摯に相談に乗ってくれるでしょう。

百貨店での相談も有効な手段です。贈る相手の好みや用途、予算に応じて、その方にとって特別な意味を持つ一本を見つけることができれば、単なる高級品以上の価値を持つ贈り物となります。

日本酒の最高級品とその値段

現在の日本酒界において最高級品の一つとして注目されるのが、精米歩合1%を切るという極限まで米を磨き上げた商品です。通常、精米歩合50%以下で純米大吟醸を名乗れるところ、0.85%という驚異的な精米歩合を実現した新澤醸造店の「零響 -Absolute 0-」は、およそ221日(5297時間)かけて米を磨き上げる究極の逸品です。この商品は税込38万5000円(※2025年6月現在)の価格が付けられています。また、「黒龍 無二」も税込44万円で取引されたことがあります(2013年醸造ボトルが、2022年に44万円で落札)。

複数本のセット商品としては、刻SAKE協会が各蔵のフラッグシップアイテムを集めた8本セット「刻の調べ」が202万円(税込)で販売され、完売となりました。そのほか、SAKE HUNDREDの「現外」は、500mlで30万円前後と、単価で見ても最高級の部類に入ります。

めちゃくちゃうまい日本酒は高級品だけなのか

興味深いことに、必ずしも高額な日本酒だけが美味しいわけではありません。高級酒には確かに希少性や特別な価値が付与されていますが、普通の価格帯の日本酒でも十分に美味しく、バランスの取れたアイテムを見つけることができます。

1500〜3000円(四合瓶)の価格帯は現在、日本酒の一つのボリュームゾーンを形成しており、品質が担保されながらも様々な個性を持った銘柄が揃っています。高級酒は洗練された味わいが特徴ですが、日常とは別に、特別な機会に楽しむものとして位置づけるのが現実的でしょう。

日本酒はワインと比較すると、まだ価格的に手の届きやすい水準にあります。そのため、この価格帯でも十分に満足度の高い体験ができるのが日本酒の魅力の一つと言えます。

入手困難な日本酒の現実

十四代」「而今」「田酒」「飛露喜」といった銘柄は入手困難で知られ、定価の何倍もの価格で取引されることがあります。しかし、これらの高額取引は酒蔵が設定した価格ではなく、一部の流通ルートや転売市場で、蔵の定価から大きく上乗せされてしまっています。

重要なのは、酒蔵は定価での販売を前提として品質を追求しているということです。3000円の酒は3000円の価値を前提として醸造されており、それを1万円で購入しても1万円分の価値があるとは限りません。

こうした銘柄を楽しむ最も健全な方法は、適正価格で提供している居酒屋や飲食店を見つけて、そこで1杯ずつ味わうことです。数千円の予算で複数の銘柄を試すことができ、コレクション目的で高額購入するよりもはるかに合理的な楽しみ方と言えるでしょう。

「百光」という日本酒の評判

「百光」(SAKE HUNDRED)
https://jp.sake100.com/products/byakko

SAKE HUNDREDが手掛ける「百光」は、日本酒界に新しい価値観をもたらした画期的な銘柄として高く評価されています。この商品を楽しむ際は、適切なグラスを使用し、正しい飲み方で味わうことで、百光が持つ本来の価値に向き合うことができます(※リースリンググラスを用いて、冷蔵庫から出したばかりの5〜10℃で楽しむことをブランドは推奨。https://jp.sake100.com/blogs/story/6)。

百光」は非常にキレイで洗練されたタイプの日本酒で、日本酒の新たな方向性を表現している銘柄です。高級品ゆえにハードルは高いものの、日本酒の一つの到達点として一度は体験する価値があります。

その洗練された味わいは、日本酒の持つポテンシャルを存分に引き出した素晴らしい仕上がりとなっており、愛好家からも高い評価を得ています。

まとめ。多様化する日本酒の価値

現在の日本酒界では、従来の「よく磨いた米=高級」という単純な図式から脱却し、多様な価値の付け方が生まれています。特定の品種の米を使用したり、極限まで磨いた上でさらに長期熟成させたりと、様々なアプローチで付加価値を創出しています。

さらに、著名アーティストがボトルデザインを手掛けるなど、日本酒に関わるすべての要素が価値創造の対象となっています。もはや酒の味わいだけが価格を決める時代ではなく、精米歩合だけが価値を生み出すものでもありません。

この多様化は日本酒の可能性を大きく広げており、消費者にとっても選択肢が豊富になったことを意味します。それぞれの価値観に応じて、様々な楽しみ方ができる時代になったのです。高級日本酒の世界は今後もさらなる発展を遂げ、私たちに新しい発見と感動を与えてくれることでしょう。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。

構成/土田貴史

 

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